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秋の太陽を殺したい
大学に通いながらでも、案外小説は書けるものらしい。
小説投稿サイトのランキングを、ぼーっと眺める。その上位にあるのは、どれもハッピーエンドの小説ばかりだった。
なぜ、ハッピーエンドを迎えなければならないのだろう。別に、主人公が死んで終わってもいいじゃないか。絶望しながら終わってもいいじゃないか。後味が悪くたっていいじゃないか。
現実なんて、ほとんどがそういう終わり方をしている。今まで死んだ人間のうち、希望にまみれて死んだ者はどれくらいいるのだろう。世の中には不幸なニュースが溢れているというのに。
先月よりも低い確度からこちらを照らす太陽は、僕の影を長く間抜けな形に変換し、アスファルトの地面に映し出している。肌寒い風が僕の露出された首元から熱を奪っていった。
前からやってきた自転車と左右の譲り合いをして、違法駐車の車を膨らむように歩いて追い越し、ビルの陰に身を隠す夕日に別れを告げ、光に集まる虫を払いながら一六〇円のコーラを購入し、自宅の扉を開ける。
そろそろ上着が必要だなと、そんなことを考えながらコーラの蓋を捻る。
「……あ」
なんとなく開いた「書籍化作品」のページに、見覚えのあるペンネームと題名を見つけた。どうやら今月末に出版する予定らしい。
かち、かち、かち。アナログ時計が同じ一秒を刻み続けるなか、僕は買ってきたコーラと冷蔵庫のハイボールを混ぜ合わせる。ハイボールは冷蔵庫で留守番させた甲斐もあって、あの日の部室のような、ピリッとした冷たさを纏っていた。
僕は携帯を取り出し、チャットアプリを起動させると、友達のリストから先輩の名前を探した。
ただひとこと、「うそつき」と言ってやるつもりだった。
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