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「これ…どこで」
そう口に出したのは、このお弁当箱をずっと失くしていたと思っていたからだ。
あぁ…高校3年間ずっと大事にしていた私の宝物。
『これ、一人暮らしする時に俺の荷物と混ざってたんだよな。ずっと姉貴に渡そうと思ってたんだ』
「ありがとう…」
私が大事そうに両手で持っていると、春一が何か考えているような顔をしている。
「どうしたの?」
『あ…いや、そのお弁当箱って確か、姉貴が大事に使っていたなぁって…』
「うん」
『前にさ、俺が洗い物をしようとして、そのお弁当箱を台所で落とした時の姉貴の顔…俺覚えてるよ』
「私だって、それは覚えてるよ」
『その時、あんまり怒らない姉貴が「あぁ!?何してんだよ!!割れてねぇだろうなぁ!?」って叫んだんだもんな。あれはビビったわー』
笑いながら春一が言うから、私もつられて「あはは」と笑った…。
大事な物だよ。
だって…。
『あ、やべっ。俺そろそろ用意するわ』
「春一は仕事行かないとね」
私は冷蔵庫から麦茶のポットを出し、コップにそそいだ。
春一の後ろ姿を見ながら心の中で「良かった」と思った。
……覚えていなくて良かった。
どうして、このお弁当箱を大事にしていたか春一は覚えていない。
うん。覚えていなくていいよ。
このお弁当箱は…だって、
「武本くんと同じお弁当箱」だったから。
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