第1章 幕開け

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-------------------- 武本side 『久しぶり。元気?』 俺は久しぶりに会う妻・映理(えり)と刑務所で話をしている。 もちろんガラス越しに。 「まぁまぁかな」 『会えて良かったわ』 映理はいつもと変わらず笑顔を見せてくれているけれど、俺は少しも笑えない。 「映理…あのさ」 ずっと考えていた事。 言わなければいけない。 映理の目をじっと見た。 『何?』 「俺と離婚してほしい」 『それはイヤよ』 即答だった。 映理も俺の顔をじっと見つめている。 「映理のためだ。俺と一緒に居たら映理は」 『大丈夫。私は、直哉が好きなの。どんな事でも耐えるわ』 映理は俺の言葉を遮り、涙声で話している。 『私…直哉と離れたくない。ちゃんと待ってるから』 「……」 何も言えない。 これから先、映理は俺のせいで肩身の狭い思いをするだろう。 『周りから何を言われようと気持ちは変わらない。……また来るわね』 手を振って帰っていく映理を、ただずっと見ていた。 後から『やっぱり離婚すれば良かった』と言われるのは嫌なんだけどな。 本条誠一さんを殺してしまい、俺のせいで悲しんでいる人がいる。 本条さんも今、俺のせいで泣いているかもしれない。 刑期が終わったら会いに行こう…。
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