第1章 幕開け

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「変わってないのね、武本くん」 病室から出て廊下にあった椅子に、私は武本くんに「座って」と誘導した。 父は霊安室に運ばれ、母も春一もついて行った。 私は「少しだけ話したい」と懇願し、警察の人に待ってもらっている。 『俺と話が出来るのか?』 武本くんは目を合わせてくれなかったが、静かに言った。 私は体ごと武本くんの方を向いた。 「平気なわけないでしょう?憎いよ」 「でも…」と言いかけて下を向いた。 「私、武本くんの事好きだったから。会えて嬉しい気持ちもあるの」 真実だった。 高校3年間ずっと同じクラスだったのに何も言えなかった。 いつか言おう、言おうと思っていたけれど、あれから年月は流れ、5年が経っていた。 「驚いたでしょう?でね、今こうして再会して、やっぱり武本くんの事好きだったなって改めて思った」 「また会おうね」と言い、警察の人達が来て武本くんを連れて行った。 私は、その姿をずっと見続けていた。
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