39人が本棚に入れています
本棚に追加
「変わってないのね、武本くん」
病室から出て廊下にあった椅子に、私は武本くんに「座って」と誘導した。
父は霊安室に運ばれ、母も春一もついて行った。
私は「少しだけ話したい」と懇願し、警察の人に待ってもらっている。
『俺と話が出来るのか?』
武本くんは目を合わせてくれなかったが、静かに言った。
私は体ごと武本くんの方を向いた。
「平気なわけないでしょう?憎いよ」
「でも…」と言いかけて下を向いた。
「私、武本くんの事好きだったから。会えて嬉しい気持ちもあるの」
真実だった。
高校3年間ずっと同じクラスだったのに何も言えなかった。
いつか言おう、言おうと思っていたけれど、あれから年月は流れ、5年が経っていた。
「驚いたでしょう?でね、今こうして再会して、やっぱり武本くんの事好きだったなって改めて思った」
「また会おうね」と言い、警察の人達が来て武本くんを連れて行った。
私は、その姿をずっと見続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!