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目の前の母は泣いている。
母の考えも分かるけれど。
でも、愛してもいない雄一との子どもをどうやって育てればいいの…。
私は無言でトイレに入った。
…。
…。
…。
陽性だった。
つまり、妊娠していた。
私はすぐに産婦人科へ行った。
『妊娠してますねー』
「そうですか」
わりと家の近くにある産婦人科に行くと、40代くらいの女の先生が明るい声で言ったけれど、私はきっと無表情。
『えっと…本条さん?』
「何でしょうか」
きっと、私の態度が怖いのだろう。
先生は苦笑いをしている。
『産みますか?』
「産みません。中絶希望なので」
『分かりました。では、手続きの説明をしますね』
確かに、私が決めた事はいけないのかもしれない。
本当に子どもが欲しい女性にとって私は「敵」になるだろう…。
けれど、望まない妊娠をしてしまった。
産んでも育てられないから。
仕方ないよ…。
病院を出ると、涙が溢れた。
本当は、授かった命。
出来る事なら私の子どもに会いたかった。
ううん、これで良いんだ。
私は武本くんの子どもを産めばいいのだから。
絶対…可愛い。
男の子でも女の子でもいい。
早く会いたいよ。
武本くん。
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