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武本くんが立ち止まったので、私は手を引っ張った。
『え、本条さん、ここって…』
「うん。入ろう?」
目の前にはホテル。
しかもビジネスホテルじゃなく、「恋人同士が入る」ホテル。
「そんな…勘違いしないで?抱いてなんて言わないから。お互い誰かに見つかったら困るでしょ?私は武本くんとゆっくり話がしたいだけなのよ。お金は私が払うし、良いでしょう?」
有無は言わせないよう私はさっきよりも力強く武本くんの手を握って引っ張った。
「それにしても…ピンクが多すぎね」
部屋のパネルで「普通」な所を選んだのだが、所々ピンクが多い…。
後ろを振り向くと武本くんは黙ったまま立っている。
「何か…飲み物を入れるから武本くんは座ってて?」
私がそう言うと、武本くんは靴を脱ぎ、ベッドに座った。
「あ、紅茶がある。武本くんは何が良い?」
『何でも…いいよ』
「分かった」
武本くんが元気無いのは切ないけれど、今は仕方ないよね。
絶対、笑顔にしてあげるから。
「はい、どうぞ」
『ありがとう』
武本くんにはストレートティーを、私はミルクティーを入れた。
心を落ち着かせようと甘くしてみた。
武本くんの横に座り、一口飲んでみる。
「ふぅ…武本くんに会うのは久しぶりね」
甘い。
私もストレートにすれば良かった。
武本くんもストレートティーを一口飲んで、テーブルに置いた。
『うん。それで話したいことって何?』
「そうね…あの事は本当にもう気にしなくていいの。それより、武本くんの体調は大丈夫?」
『あぁ、俺は大丈夫』
「奥さんは?確か…映理さんって言ってたような」
『大丈夫だよ』
「嘘だ……」
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