最終章 逃避行

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「こ…怖いわ」 直哉に着いていくと、そこは崖。 下は海で、ここから落ちたら絶対に助からない。 「でも…直哉と一緒なら」 私がそう言うと、直哉は微笑み、2人の胴体を繋ぐ縄を縛った。 「そうね。私も雄一と映理さんを…他人を使って自殺に追いやったから死んだ方が良いんだよね」 その事は直哉にも話した。 直哉は『そうか』だけ言い、私を責めたりしなかった。 直哉と再会してからは、陰影の足音は私に近付いていたんだろう。 "くもり"は消さなきゃ。 ずっと晴れにならない。 私達は、一歩歩いた。 『依智花に言わなきゃいけない事があるんだ』 「何?」 「依智花の事、好きだけど…愛じゃない」 「え?いいよ。側にいてくれれば…。これから愛してくれればいいのよ」 『ずっと、辛かった。やっぱり…負い目は消えてくれないんだ』 「そんな…気にしないでって」 私は右足を出すと足場は無かった。 後ろ向きで飛び降りるのは怖いと思い前を向いた。 『本当に申し訳ないけど』 直哉に背を向けると、直哉は私を後ろから抱きしめた。 それと同時に金属音が鳴った。 「何で?」 私は振り向いて「それ」を確認した。 金属音はハサミの音だった。 直哉が縄を切ったのだ。 直哉は悲しそうな顔で『ごめん』と言った。 そして、私はすぐ体が傾き後ろへ。 「嫌だぁ」 直哉は私を押した。 …そうか…これが直哉の出した答えなんだ。 私はもう二度と直哉と会えなくなるのね。 私が最後に見たのは、 私がこの世で一番愛している 武本直哉の泣いている姿でした。             〈完〉
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