またね、お姫様

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しかし、追い打ちをかけてくるように、状況は悪くなるばかりだった。   ナチスは、さらに、あたしたちの生活を追い詰めていった。 食料は配給制になり、券がなければ、何も手に入らなくなった。 しかも、その配給自体も名ばかりのもので、 あたしたちは、どんどん飢えさせられていった。 子どもも、大人も、みんなが空腹の日々を過ごすことになった。 あたしも、いつもお腹を空かせるようになった。 そんな中、季節は冬に入り、 寒さまでもが、あたしたちを襲った。 飢えと寒さに、人々は苦しめられた。 けれど、それ以上に、心の方が、ずっと辛かった。 あたしは、 冷えた体と空腹を抱えながら、 ずっと同じことを考えていた。 このまま、ずっとレメックとは会えないのだろうか…。 レメックは、毎日、どうやって過ごしているんだろう。 この苦しい日々を、どう思っているんだろう。 あたしと会えていないことを、 少しでも、寂しいと思ってくれているんだろうか。 彼も、あたしと同じような気持ちでいるのだろうか……。 レメックのいない日々は、 光のない、ぼんやりとした世界のようだった。 けれど、あたしの想いを分かってくれる人はいなかった。 両親は、あたしを追い詰めるだけだった。 「これでいいんだ」 と父は言った。 「今までが間違っていたのよ」 母も言った。 あたしの心は、とうとう限界に達した。 「…あたしが何を間違ってるっていうの!? レメックは、たった一人の友達なんだよ!! たった一人、あたしを見捨てないでいてくれたんだよ!! だから、あたしだって、レメックたちを見捨てない!!! ユダヤ人だからって、 ポーランド人だからって、 ドイツ人だからって、 そんなのは関係ない!! ユダヤ人だから付き合っちゃいけないなんて… お父さんとお母さんは、ナチスの奴らと同じだよ!!!」 確かに、あたしたちポーランド人は、ナチスにひどいことをされた。 けれど、ユダヤ人を差別し、苦しめたのは、ナチスだけではなかった。 ユダヤ人たちの悲劇を大きくさせたのは、 あたしたち普通の市民でもあったのだ―――。 最後の日が訪れたのは、それから間もなくのことだった。
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