またね、お姫様

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「アネタ」 後ろから、レメックの声があたしを呼んだ。 振り返った瞬間、あたしの頭の上に何かがのせられた。 そこで、麦わら帽子を外して見てみると―― 帽子のリボンの部分に、 たくさんの花や植物で作られた冠が付けられていた。 「えっ」 小さな声を上げると、 レメックが微笑んで、 あたしの目の前に座った。 「それ、付けてよ。アネタ」 「え?」 言われた通りに冠の付いた帽子をかぶると、 レメックはニッコリ笑った。 「似合ってるよ。 なんだか…お姫様みたいだ」 「え?」 思わず聞き返すと、 レメックは少し顔を赤くした。 「いや…とにかく、似合ってるよ!」 あたしは聞き逃してはいなかった。 レメックが、あたしのことを…お姫様と言った!! 「ほんとに?」 「えっ?」 「あたし、お姫様みたい?」 「…聞いてたんだ」 レメックはまた顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。 けれど、今度ははっきりと言った。 「うん、お姫様みたいだよ…ほんとに」 レメックは照れているようで、 しばらくの間、こちらを見てもくれなかった。 けれど、あたしは幸せだった。 あまりにも嬉しくて、 今すぐ空を飛べそうなほどフワフワした気分だった。 「アネタ?」 ようやく、レメックが口を開いた。 「ごめん…心配かけて。 でも、どうしても、帽子を取りに行きたくて体が動いちゃったんだ。 だって、それは…アネタの大切なものだから」 申し訳なさそうに言う、レメック。 あんなに怒って悪かったな、とあたしは思った。 「レメック… あたしがこの帽子をお祖母ちゃんに買ってもらったこと、覚えてたんだ」 少し驚きながら言うと、レメックはうなずいた。 「当たり前だろ?すごく喜んでたじゃないか」 確かに、大好きだったお祖母ちゃんに買ってもらったこの帽子は、 あたしのお気に入りだった。 お祖母ちゃんが死んでしまった夏、葬式に出た時にも、 ずっとこの帽子をかぶっていたほどだった。 レメックは、ちゃんと見てくれていたんだ…… 温かい気持ちになった。 「ありがとう…レメック」 あたしが笑うと、 レメックも笑顔になった。 大好きな笑顔。 小さかった頃から、 ずっと守ってきてくれた笑顔。 あたしとレメックは、ほんの幼い頃から、ずっと一緒だった。 家もすぐ近所で、 あたしはレメックとその家族のことが本当に大好きだった。 レメックのお父さんとお母さんは、とても親切な温かい人たちだった。 あたしが急に家にやって来ても、嫌な顔一つせず、 「いらっしゃい」と笑顔で迎え入れてくれた。 彼らは、あたしの実の両親よりも、 あたしのことを理解しようとしてくれた。 あたしのことを「良い子」だと言ってくれた大人は、 死んでしまったお祖母ちゃん以外、 彼らだけだった。 レメックには、小さな妹もいた。 とても可愛い子で、 一人っ子のあたしにとっても、 たった一人の妹のような存在だった。 レメックは本当に妹思いで、いつも妹のことを気にかけていた。 あたしは、レメックのそういうところも好きだった。 レメックの家族は、あたしの理想だった。 優しいお父さんに、明るいお母さん、そして可愛い妹… レメックが持っていた全てを、あたしは一つも持っていなかったからだ。
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