またね、お姫様

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戦争が始まって、しばらく経ち―― 閉鎖されていた学校が、久しぶりに再開された。 あたしは、それまで学校なんか大嫌いだったけど、 その日だけは張り切っていた。 久しぶりに、レメックに会える――その思いだけだったのだ。 しかし、どういうわけか、レメックは学校に来なかった。 レメック以外にも、何人かの生徒たちが学校に来なかった。 代わりにいたのは、ナチスの隊員たちだった。 奴らは、あたしたち子どもに向かって、以下のことを守れと言った。 今日から、ポーランド語は一切使わず、ドイツ語の学習だけをすること。 これからは、ドイツ人に服従すること。 それは、正しく、悪夢のような日々の始まりだった―。 けれど、あたしは何より、 レメックがなぜ学校に来なかったのかが気になった。 そこで、担任の先生に聞いてみた。 すると、驚きの答えが返ってきた。 その答えは、こうだった。 レメックは、「ユダヤ人だから」学校に来られなくなった。 何か重いものが頭に落ちてきたような衝撃だった。 理解が出来なかった。 しかし、それもナチスの政策の一つだった。 ナチスの考えでは、 ドイツ人が世界で最も優れていて、 ユダヤ人は世界で最も劣っている民族だったのだ。 けれど、そんなわけはなかった。 あたしは、 レメックや、彼の家族以外にも、 たくさんの優しいユダヤ人の人たちを知っていた。 彼らが、このドイツ人たち―ナチスの連中よりも劣っているわけがない。 そんなわけない……信じられなかった。 あたしは、レメックの家へ行くことにした。 レメックと、話がしたかった。 レメックに、会いたかった。 あたしは、学校からレメックの家まで、走っていった。 レメックは、今、どんな気持ちなんだろう。 心配で、たまらなかった。 学校が大嫌いなあたしの手を引いて、 よく一緒に学校までの道を歩いてくれたレメックが、 ユダヤ人だからというだけの理由で、 突然、学校に行くことを禁じられるなんて。 何か悪いことをしたわけでもないのに、学校に通えなくなるなんて。 あたしは、レメックが「将来、学校の先生になりたい」と言っていたことを思い出した。 レメックがその夢を抱くようになったきっかけは、 算数が大の苦手なあたしが、レメックに教えてもらったことで、 分からなかった問題が分かるようになったことだった。 ずっとつまずいていた問題をあたしが乗り越えた時、 レメックは自分のことのように喜んでくれた。 「すごいよ、アネタ!やったね!!」 もう、ああいう風に、レメックに勉強を教わることは出来ないんだろうか。 そんなの、嫌だ!! 心の中で叫びながら、あたしはレメックの家に向かった―。
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