またね、お姫様

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戦争が始まってから、一気に、いろいろなものが消えてしまった。 ナチス・ドイツの支配下となったこの国では、 権利や自由など、何一つ存在しなかった。 ポーランドの文化や誇りは、ナチスの奴らにことごとく奪われていった。 町の教会は焼き払われ、 無数のポーランド語の本が燃やされ、 灰となった。 国の未来を潰すため、 知識層といわれる教師や学者などが、 大勢逮捕されたり、銃殺された。 あたしの担任の先生も、その一人となった。 担任の先生がいなくなった教室で、 あたしたちポーランド人の子どもは、 とにかくドイツ人に服従するということを学ばされた。 あたしたちは、常に見張りのドイツ兵がいる中で授業を受けた。 少しでも奴らの規則に違反しようものなら、厳しく罰された。 ポーランド語で話そうとしただけで、鞭で打たれることもあった。 自分たちの支配者がドイツ人であると意識すること、 自分たちがポーランド人だとは忘れること。 それらのことが、徹底的に、子どもたちの頭に植え付けられた。 ポーランドは、本格的に、破壊されようとしていた。 しかし、ナチスが最も見下しているのは、 やはりユダヤ人だった。 ユダヤ人たちは、学校に行くことも、今までの職場で働くことも、 あらゆる公共施設に立ち入ることも、公園に入ることすら、 全てを禁じられた。 そして、 外出する時には、 星印の腕章を付けるということを義務付けられた。 一目見ただけで、ユダヤ人だと分かるようにするためだった。 あたしは、ずっと、レメックと会えていなかった。 こんなに会えていないのは、初めてのことだった。 会いたくて、話したくて、たまらなかった。 だけど、レメックのお母さんの言葉を思い出して、 会いに行こうと思っても足が止まった。 レメックのお母さんのことも大好きなので、 傷つけるようなことはしたくなかった。 けれど、やっぱり、レメックに会いたくて仕方がなかった。 レメックのいない教室は、とても殺風景で、寒々としていた。 彼は、いつもクラスの人気者だったから…。 人気者を失った上に、 ドイツ兵に監視されながらの危険と隣り合わせの日常。 クラスは、すっかり暗く、落ち込んでいた。 子どもたちの目から光が消え、笑顔がなくなった。 あたしの心も、暗く沈み込んでいた。 改めて、レメックの存在が、 自分の中でどれほど大きいものだったのかを知った。 レメックの笑顔を見るだけで、元気をもらっていた。 あの日々には、もう戻れないのだろうか…。 戦争が始まる前の、あの日々に戻りたい……。 レメックと一緒に過ごせた、あの頃に戻りたい……――。 心が、切なさと寂しさで、壊れかけていた。
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