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日々の生活にも窮する状況で、喉から手が出るほど金は欲しいが、さすがに何か怪しいと思い、適当にあしらおうとした。
だが、電話の向こうで花咲が呟いたある名前が、話を聞いてみようと思わせた。
「山路ひろみ」
それは、世の中に殆ど知る者のいない、山崎宏のペンネームだった。
「山崎様は、山路ひろみ名義で作家活動をされ、一度、とある文学賞の大賞を受賞されておられます」
「ええ、確かにそこで大賞を取っていますが、作家として華々しくデビューが約束されるようなメジャーな賞ではありませんし、紙での出版ではなく電子書籍の作家としての賞ですから、殆ど人に知られることも無く、仕事の話も無く、鳴かず飛ばず状態ですよ」
「ええ、その辺はよく存じ上げております」
山崎は、学生の頃から作家を目指していた。
来る日も来る日も小説を書き続け、何年も挑戦し続け、一度は応募した小説が大賞を取るという形で、彼の才能は、人生は、花ひらく時を迎えたのだ。
しかし、コンテストの応募作品として高い評価を受けたとは言っても、その作家に商業的に成功することを期待して執筆の依頼をすることは、また別の問題である。
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