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山崎は、大賞を受賞したものの、その後の作家としての仕事には恵まれなかったのだ。
「だからこそ、あなたの花ひらいた過去にはお売りいただく価値があるのです」
「いや、しかし、どうやって…」
「これが、誰もが知っているメジャーな文学賞の経歴であれば、作家本人の情報がメディアに流れ、多くの人が目にしてしまいますし、その後も何作品か話題になり続けてしまうでしょう、そんな経歴はお譲りいただいても全く使いようがありません」
「はあ…」
「しかし、山路ひろみが受賞した賞については、その作家本人の事を知る人間はほんの一握りで、知っていた人たちにしても、その後作品の無かった何年も前の受賞者の一人の事など、もう忘れてしまっています…だから、ご本人の了承さえあれば、あとはうまくデータを書き換えてしまえば、別の方が過去に花ひらいたことにできるんですよ」
「そんなことができるんですか」
「ええ、その辺の改ざんは、企業秘密ですがわたしの得意分野ですので」
山崎はもう、作家を諦めて普通に就職し、新たな人生に踏み出そうと考えていたところだった。
なまじ受賞歴なんてものがあるが為に、諦めきれずズルズルとやってきてしまった。
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