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山路ひろみというペンネームとともに手放した、過去の栄光に未練はない。
どうせ、賞を取ったときの自分の作品のスタイルというものに煮詰まっていたのだ。
小説を書くなら、心機一転、新たな方向性をみつけるべきだとわかってはいるが、それが容易くできれば苦労はない。
ため息をついて書きかけの小説を閉じる。
そのままメールチェックをしていると、意外な差出人からのメールがあった。
「花咲…」
こういうマッチングは、終わったら極力連絡を取り合わないものだと思っていた。
花咲のメールの本文にも、このような連絡は異例のことだと書かれている。
山路ひろみの過去の栄光を購入したクライアントが、提供者に自分の素性を知られるのを覚悟のうえでどうしても面会したいと言っているようで、当然無理ならお断りいただいて構わないとのことだった。
山崎も、今の生活が上手くいってたら即座に断っていただろう。
そんな行動は、新たな人生を壊すリスクにしかならない。
だが、未だ人生を変えられずにいた山崎は、リスクでもいいから変化を求めたのだ。
山崎は、承諾のメールを返信した。
数日後、花咲のオフィスで山崎とみどりは面会した。
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