南京錠

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 - オリエント、ロビー -  茜が遼一たちの元へ向かっているころ、ちょうどオリエントのロビーに踏み込んだ宣彦たちだったが、そこにはすでにボーイの姿すらなく、ただ人気の無いロビーで気を引くような横柄な態度を見せつけてた。豹柄のサテンを被せた革張りのソファーに4人で寝そべり、客をいつまで待たせるつもりだと声を荒げて息まく。  趣味がいいのか悪いのか、わかりかねるアジアの匂いが滲むホテル内は、西洋かぶれした自分たちには違和感でしかなく、サービスカウンターの天井に仕込まれた監視カメラが4人を睨む中、それに気がつかぬフリをして高々とタバコを咥え辺りに煙を撒いた。  ツレのひとりがわざとらしく灰皿になりそうなものを探して廻る。  あくまですべて演技、どう動くべきかを5人ともがそれぞれに思案している最中だった。 (とっくに全員寝てるんじゃないか?)  猿田がそっと耳打ちする。 (いや、それはない)  宣彦は冷静に答えた。入り口を向いていた監視カメラが今はしっかりこちら側を睨んでいる。まちがいなく観ている者がいるということだ。  そんなやりとりの最中、ロビー奥のエレベーターがゆっくりと上階から降りはじめた。 (客か、従業員か、それとも、)  ⑤,④,③・・・と点滅する掲示灯に注目しながら宜彦は咥えていたタバコの煙を太く吐いた。 「ここまできたら後戻りは無しだぜ? 片っ端からぶちのめして美月とおっさんたちを助け出すんだ」  一同がそう意気込むとまずは宣彦が立ち上がる。  次いで4人も足早にエレベーター前にそっと潜んだ。  さあ、鬼がでるか、蛇がでるか ―。  ....②....①  向かって右側の陰に宣彦とツレのひとり、左側にもうふたり、そして真正面には猿田が構えた。  この並びで言えば猿田はいわゆる重戦車だ。鉄壁の盾であり強烈な主砲である。先の見えない状況なら後手に周るよりまず打つべし -、  これは金城の口癖だが、この時5人ともが同じ言葉を念じていた。  ゆっくりと扉が開く。  そこで猿田が先陣を切ってエレベーター内に飛び込んだ。そこで視界に入ったのはシェイファンひとり、猿田は躊躇することなくその女の胸倉を掴み床に突き倒した。  上手く意表を突いたのかさして抵抗もないままシェイファンがあっさりと仰向けに倒れ込む。そこで猿田は問答無用の硬い拳を彼女の顔面目掛けて振り墜とした。 ドスン ー!  鈍い音がエレベーター内からロビーまで抜ける。
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