南京錠

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 宣彦たちもそれを合図に猿田の背を飛び越えエレベーター内に踊りこんだ。  幸い他には誰も居なかったようで、シェイファンに覆いかぶさった猿田の巨体を見るだけで事は済んだ。 「おい、美月はどこにいる?」  宣彦が巨体の下に押し倒された女に聞く。しかし、返事はない。 (ちぃ、モロに喰らっちまったか) 「少しは手加減しろよサル。とりあえず女を起こせ、外に運び出そう」  しかし、女同様に猿田の返事も無かった。  どうも様子がおかしい、宣彦は用心深くしゃがみながらふたりの様子を伺う。  まず、猿田の拳が床に突きたてられたまま停まっている。その脇には平然と猿田を見つめるシェイファンの妖しい笑みがあった。  一方、猿田のほうは硬い表情でぽたりぽたりと冷や汗を落としている。  それもそのはず、彼女の右手、その先に構えた小銃が猿田の首根っこに突きつけられていたのである。 「まさかこんな場所で熊に襲われるとは、さすがに思わなかったわよ」  苦笑気味にボヤきはしたが別段驚いた気配もなく、シェイファンはわざとらしく猿田の首元で檄鉄を弄んでいる。  そこで扉は閉まり、エレベーターが勝手に上昇を始めた。  硬直状態のまま上昇するエレベーター。それは地中の悪魔に胃を掴まれたような錯覚を起こすほど5人に緊迫感を与えていた。  身動き取れぬのはシェファも同じで、一瞬でもスキを見せれば猿田に取り抑えられるのはわかっている。  今、ここにいる6人の命運を握っているのはこの空間を動かした誰かだ。それがシェイファン側の人間か、それともただの宿泊客か、それがあわよくば美月であってほしいと宣彦は願った。   ...②....③.....④....  階数表示灯だけがトキを刻む隔離されたスペース。やがて⑤が点灯する。 (頼む、)  男たちがそれぞれ願う中、裏切るように⑤の表示が消えた。  そのままエレベーターは上へ。  つまり、行き先は6階、宜彦の望みがあっさりと絶たれる。  ゆっくりと扉があいた ー。  そこで待っていたのはすべて予見していたかのように銃を構えた王とボーイである。 「また貴方ですか、どこまでも無鉄砲な人ですね。無手でやりあえる相手だとでも思っていましたか?」  王の皮肉もどこか絵空事のように遠い。宣彦は一呼吸だけ視線を流したあとで猿田の肩を叩いた。そこで自分たちの負けを宣言した。  王はそれを確認すると鍵を取りだし行き先階パネルを開けた。  すると⑥とB1のボタンが新たに出て来る。 「貴方達をどう扱うかは下(地下)でゆっくり決めましょうか」  ようやく解放されたシェイファンが猿田に抱きつくように身を起こした。 「ふふふ、さて、この熊さんはどういった趣向がお好みかしらね」  そう言いながら猿田の耳元に悪戯に唇を重ねもう一度ホホと笑う。  8人を乗せたエレベーターはそこで再び下に向かい急稼働、それと同時に宜彦たち5人の顔色は次第に青ざめていくのだった。
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