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ー 6階、遼一たちの部屋 ―
「どこも怪我はない?」
未だ警戒態勢を緩めぬ美月に、茜は遠慮がちにだったが心配している態度を見せた。しかし、そんな茜に対して美月はさらに目つきをとがらせ、「いったい何しに来たの」と逆に茜を責め立てにかかる。
「何って、助けに来たに決まってるじゃない」
やや興奮気味に茜が答えると「貴女がいったい何の助けになるか」と言わんばかりに美月は遼一の身体を自分に引き寄せながらそっぽを向いて見せた。
茜は一度部屋の中を念入りに見まわし、日中の美月と同じように窓を開ける。深夜であるから何も見えない。街灯も落ちているのか、本当に外は底闇だった。
「そこはもう私が確認したわ」
美月にそんな嫌味を零されながらもそれでもベッドの下、トイレの扉、風呂の中と確認して回った。穴居のところとくにあやしいものは見当たらない。それどころか、
「け、けっこう良い部屋よね」
そんな間抜けな言葉がでてしまうほど上等な設えであるという印象だけが強くなった。
もういいや ー、
茜は未使用のままのベッドから上布団を引っ張り出し、それからソファで睦まじく横たわる美月を向こうに押すと、わずかに開いた遼一の胸に額だけ重く乗せて息を長く吐いた。
それから上布団を自分の肩から落とし、声を殺して少しだけ泣いた。
とりあえず、ふたりとも無事でよかった -
本当に、 よかった ―。
いがみ合う美月ですら今は愛おしい。
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