南京錠

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 ― オリエント、B1 3号室 ―  地下と言ってもそれほど悲惨ではない。エレベーターを出ると赤絨毯がまっすぐ伸び、その両側に個室が向かい合うように並んでいた。  宣彦は手前から2番目の3号室に放り込まれ、他の4人はそれぞれ別室に監禁される。 「ああそうだ、これは貴方のでしょう? 返しておきますよ」  部屋の入り口で王は寛治から取り上げた携帯電話を宣彦に渡し、出際にもう一度宣彦の顔を見て部屋を後にした。 (ふん、わりと律儀なとこあるじゃねぇか)  まずは素直にそう思ったが、よく見ればバッテリーがしっかり抜かれている。 「おいおい金城になんて言えばいいんだよ・・・」  誰も居ない部屋であえて口に出しおどけて見せはしたが、それも精いっぱいの強がりで内心はお先真っ暗である。  4人ともバラバラにされ連絡も取れない状態、美月の救出どころか自分たちの身の安全も確保できるか怪しい。幸いと言えば監禁された先が冷たい牢獄ではなく客室であったことぐらいか。  しかし部屋の造りから察するにここ(地下階)が普通の客室で無い事がわかった。おそらく買った娼婦たちを抱くための部屋なのだろう。ベッドとソファにガラス張りのシャワールーム。もちろん窓はない。  壁をゴンゴンと叩いてみたがひとつも響く事なく静寂の中にすべて吞まれていく。 (防音壁か、今の俺にとってはここは拷問部屋かもしれないな)  軋むベッドを蹴飛ばして舌打ちすると宣彦はタバコそっとを咥えた。そこへ思わぬ訪問者が現れる、ブランデーを小脇に抱えたシェイファンだ。  頼みもしないのにグラスを宣彦に渡すとシェイファン自身が酌をした。 「貴方達ンいは明後日までここで過ごしてもらいましょうか」 「明後日?」 「そうよ」 「なぜ明後日なんだ」 「なぜって、そうね、私たちの取引が終わるまで大人しくしといて欲しいのよね」 「取引? ああ、偉そうなヒゲ(董)が言っていたあれかい?」 「ホホ、言うわね。そうよあのヒゲの偉そうな計画」  妙に砕けて話すシェイファンに多少の違和感はあったが宣彦は質問を続けた。 「おっさん(寛治)も地下に監禁してるのか?」 「いいえ、客人として5階にいるわよ」 「美月と遼一は?」 「6階であずかってるわ」 「そうか、無事ならいい」  その返答で宣彦は胸を撫で下ろした。 「ああ、そうそう。他にもふたり訪問者があったわね」 「それは母娘か!?」 「そう、そちらも客人としてちゃんと扱ってるわよ」 「そうか、そいつはよかった」  茜の無事を聞けた事が何よりよかったのか、急に上機嫌になった宣彦はもうひとつだけ質問をした。 「最後に、そもそも遼一とあんたの関係はなんなんだ?」 「私と隆児の関係?」  フフ…、  気前よく答えていたシェイファンもそこはなぜか笑って濁す。  やがて何を思ったかソファーにそっと横たわると、彼女はそのまま返事もなく深く寝入ってしまったのである。
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