14人が本棚に入れています
本棚に追加
- オリエント、B1 7号室 -
猿田が閉じ込められたのは宣彦の斜め向かいの7号室。
こちらも女を買った客がそれを抱くためだけに作られた部屋で、八畳ほどの間取りにダブルベッドとソファ、それとサイドテーブルがあるだけの簡素な様相だった。エスニック調の壁紙とバロック調の天井が不釣り合いで妙な気分にさせられる。
そんな中、片っ端から引き出しを開け家具を退け、猿田は武器に為り得る物を探してまわった。当然、そんなものなど在るはずもない。
それどころか身を隠すスペースもなく脱出の糸口など何一つ掴めなかった。
仕方なく猿田がベッドに座りこんだその時、入り口の鍵が開く音が聴こえた。
これはチャンスか?
猿田はすぐさまドアの前に構えようとした。しかしふいに先程の失態が思い起こされる。相手が常に武装していることを忘れてはいけない。否が応にも慎重にならねば。
ぐっと目を凝らして扉からの訪問者を睨む。
しかし、ドアを開けたのはまだ年端もいかぬ少女で、それが薄いガウンひとつで深々と頭を下げてきたのである。
「失礼します。今宵世話をさせていただきます、芽衣といいます」
少女の背格好は130そこそこ、体系も顔立ちも12歳かそこらで間違いない。それが部屋に入るなり大人顔負けの流し眼を見せながらガウンを落とし、猿田の侍るベッドへ向かってシャナリシャナリと歩み寄って来るのだ。
「ちょっと、ま、まて! 俺はそんなもの頼んでいないぞ」
思いもよらぬ展開で大きな顔を真っ赤に燃え上がらせながらも猿田は部屋の隅まで後ずさりした。そこで少女は一度首を傾け困った顔になった。
「本日はあいにく姐さんがたが全て出払っています。未熟ですがどうかお相手ください」
変に大人びた言い回しがさらに猿田を混乱せしめた。
状況が呑めていないのは少女も一緒で、不可解なまま丁寧にベッドを設え伽の用意を続ける。それから白い背を向け横になり、猿田が触れて来るまでじっと待った。
そこから互いに15分、微動だにできない。
「何もなければあとで私が叱られます、どうか今夜はご慈悲をください」
焦れた少女がそう願いを告げる。
猿田は動顛して完全に泡を喰った。
そこでようやくエレベーター内でシイェファンが投げかけた言葉の意味を理解する。
つまり、自分の趣向はロリータだと看破されたのだ。
これでは脱走どころの話ではない。身動きひとつとることもできない。
猿田はシェイファンと王の眼力の前にその気概を見事に殺がれてしまったのである。
最初のコメントを投稿しよう!