彼女が咲かないことを祈る

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 タカハシの部屋は前に来た時と変わりなく、 物の少ない整理整頓された部屋だ。  「これお土産。」 スーパーで買ったものを袋ごと渡す。  「え、なになに、ケーキ?なんでおかゆ?」  「いや、ひょっとしたら具合悪いのかなって思って。」  「えー、せめてシュークリームでも、あ、でもチョコレートあんじゃん、 ありがとう。」  タカハシの様子は至って元気そうだ。顔色もいいし、ふらふらしてるとか、 おかしな様子には見えない。  「それで、花が咲いたってのはなんなの?」 渡された座布団を敷いて座り、タカハシのシャツの右肩のところを凝視しながら聞いた。  「ああ、ちょっと待って、コーヒー淹れるから。」 タカハシは手際よく二人分のコーヒーカップを持って来て、正面に座った。  「これなんよ。」 そういって半袖のシャツをめくって、(前にこーゆーのはシャツではなくカットソーだとタカハシに言われたが、女子のファッション用語はよくわからないので、シャツにしておく。) 右肩を出した。  タカハシの右肩からは、白い五つの花びらを星のように広げた花と、 緑の葉っぱが生えていた。  「どうしたん、それ?」 見覚えのある花だった。  「おとといくらい?花粉症の薬をもらいに耳鼻科に行った日の夜、 お風呂に入るときに気づいたのよ。そん時はまだつぼみで咲いてなかったけど。」  「ちょっとごめん。」 ケータイを取り出して検索する。白い星のような花びらの花。 目の前の花と同じ画像が検索結果に出た。  「ジャスミンの花か。」  「あ、これがジャスミン?」  「なんでジャスミンの花が肩から生えてるの?」  「なんでなんだろ?」  「ちょっと失礼。」  しばらく考えてから、タカハシの右肩に手を伸ばす。  「触っても大丈夫?」  「うん、別に大丈夫。」 タカハシの許可を得て、指先でつついてみる。 揺れる白い花は、プラスチックとかの作りものじゃない、 本物の手触りがした。僕はジャスミンの花を触ったことはなかったけど、 指先の花びらの潤いや香りは本物だと感じた。  「ちょっとごめん。」 指で根本をつまんで、花を引っ張ってみる。  「あ。」  「あ。」 少し抵抗があった後、すぐに花は葉っぱごと取れてしまった。
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