彼女が咲かないことを祈る

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 「やあサトウくん、お早いお着きで。」  「失礼します。」  「失礼します。」  「やあやあ、そちらが件のお嬢さんだね。いや、サトウくんには勿体ないべっぴんさんじゃないか。」  「余計なことはいいから。」  「すごい、外みたいな素敵な部屋ですね。」  タカハシの感想は的を射ていた。 部屋の七割を様々な鉢植えの植物に占領され、 球根や苔や植物の種やら本やらが詰まった棚が壁沿いに置かれ、 隅っこの小さな机と来客用なのか小さなテーブルと二つ置かれたパイプ椅子、 植物園か森の中に勝手に机を置いて生活してるような、 変な気分になる部屋だった。  「じゃあお茶も出さずに申し訳ないけど、件のジャスミンの花を見せてもらってもいいかな?」  「あ、はい。」  タカハシは僕に上着を預けると、シャツをめくって肩に咲いた花を教授に見せた。  「ほー、失礼。」 教授はジャスミンの花と葉っぱを触り、匂いを嗅いで、しばらく考え込むと、  「失礼。痛かったら教えてね。」 と言い、タカハシの首や肩に走る緑の血管を指で確認するようにゆっくりと 押していった。  こういう触診があると、ここに連れてきてよかったと思えた。 教授は変人だけど、女性に触られる分にはタカハシもまだ平気だろう。  
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