彼女が咲かないことを祈る

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 「極々一般的な寄生花のジャスミンだね。心配ないよ。」  「身体から咲く花は極々一般的じゃないですよ。」  「まー日本じゃあなかっただろうねえ。インドやエジプト、中国なんかではいくつか例があったんだけど、それも大昔だと神様の啓示だとか死を運んできた花だとか色々言われてたみたいだけどね。」  「死んじゃうんですか、わたし?」  「いやいや、大昔のことでね。寄生虫なんかと一緒で宿主の栄養をもらって生きるタイプのひとなんだけど、栄養豊富な現代の人なら死ぬことはまずないよ。」  教授は花や草や木のことを『ひと』という言い方をする。  「よかった。」  「でもなんで急に生えたんですか?」  「いやー、それは私にもわからんかな。」  「えぇ。」  「狭くとも庭のあるお家があるとするだろ。土がむき出しの空き地なんかでもいい。そういった土地を二三か月でも放っておいてご覧。春や夏ならあっと言う間に大小さまざまな植物が生えてくるよ。しかもそれで見えてるのは地面の上に出ている部分だけだ。土の下ではその数倍くらいの根っこや地下茎がぼこぼこ現れて、壮絶な生存競争、場所取り合戦が行われる。」  「いや、空き地に雑草が生えるのと人間に生えるのとではだいぶちがうでしょ。」  「まあそうだね。カビなんかだと人間にもよく生えるけど、これはそう言ったものとも別種だ。近年の温暖化なんかで、海外で見られた希少種が日本にも入ってきてたってことかな。運んだのが風なのか鳥なのか、或いは輸入物の食べ物飲み物なのかはわからないけど、そういう種類のがたまたま運ばれてきた。そしてタカハシさんという土で芽吹くことが出来た。それだけさ。」  「あ。」 タカハシが声を上げた。  「お母さんからもらったお茶、なんか外国の高いやつだって言ってた。」  「まあ必ずしも外国製のが犯人とは限らないよ。ただ芽吹いていないだけで、海外から奇妙な植物は結構な数が入っているからね。」  「それで、このタカハシの花はなんとかならないんですか?咲いたまんまってのも困るでしょ。」  今の時期はまだ長袖だしいいけど、肩が見える服を着たり、 温泉に行ったり泳ぎに行ったりして人目についたら問題だろう。  「ああ、もちろん解決策はあるよ。」
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