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先生にはお美しい奥様がいる。可愛らしい娘さんと息子さんがいる。私はその輪の中には決して入ることができないし、そもそも、入りたいと願うことは罪でしかない。
先生の周りには幾つもの輪があって、それこそ、庭で咲き誇っている犬鬼灯の花の様に、白い小花がそれぞれの花枝から伸び、一定の距離をとりながらも寄り添い合う様に存在している。
他の輪のことは分からないけれど、私と先生の輪の中心はいつだって先生で、私はそのことが嬉しくも、悲しくも、切なくも、歯痒くもあり、でもやっぱり嬉しくて、胸が高鳴る。
ひとつの花枝の先に咲いた花々に、誰かが甲乙をつけたとしたら、私の花はきっと酷く醜く、決して美しいとは言われないのだろうと思う。その事実は私の心を傷つけるけれど、それを悲しむことも、また罪なのだから、両手いっぱいに抱えながら生きて行こうと思うのです。
決して、大輪の花を咲かせられなくとも——いずれ、黒くなり毒となっても、愛さずにはいられない私を、皆が笑うのでしょう。
それでも良いのです。真実は先生と私だけが知っていれば——それで良いのです。
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