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やっぱり何処かへ出掛けよう。こう暑くては堪らない。先生はそう言って、シャツのボタンをひとつ開け、胸元に風を送る様に揺らしている。
何処へ行っても暑いものは暑いですよ。お水でもお飲みになりますか?そう言って立ち上がろうとした時、ふと手首を掴まれた。甘美な熱に胸が高鳴る。
ひとつ怖い話でもしようじゃないか。先生は私の身体を引き寄せて、自分の膝上に座らせる。
こんなにくっついていたら暑くて汗をかいてしまいます。そう言って身体を捩ると、先生は、まぁ、いいじゃないか。どうせ二人とも既に汗だくだ、と言って、両腕ですっかり私の身体を拘束してしまう。
こうなったら最後、もう逃れられない。
私は嘘をつく。
離して下さい。
先生も嘘をつく。
何もしやしないよ。怖い話をするだけさ。
私は嘘をつく。
本当に何もしないで下さいね。
先生も嘘をつく。
あぁ。ちゃんと原稿を書くよ。
私たちは散々嘘をついた後、当たり前のように唇を触れ合わせ、口内でゆっくりと舌を絡める。
あぁ、熱い。熱くて仕方がない。
一枚、また一枚と服を脱ぎ、露わになった肌を重ね合わせる。
怖い話をしてくださいな。涼しくなるような。そう言って先生の首元に腕を回すと、今話したところで無駄だろう、と笑われた。
確かにそうだと思って、ただただ、浅はかな快楽に溺れることにした。
庭に咲いた犬鬼灯が、私を嘲笑う様に、白く小さな花弁を揺らしている。ゆるり、ゆるり、と。
こんな昼間から、あぁ、なんともはしたない。
そんな声が頭に響く。それは私の声のようでもあり、他の誰かの声のようでもあった。
はしたなくて結構。大輪の花になど、なりたくないわ。
私はまた嘘をつき——白い小花を欺いた。
終
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