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本棚に追加Prolog 最悪な一日
「お姉ちゃん?
事情はまた後で説明するけど、いま帰国したから。
留守電を聞いたら、連絡下さい」
空港に到着すると直ぐ、かなり重い気分ではあったけれど、姉に連絡を入れた。
しかしまだ仕事中であろう時間帯だった事もあり彼女は電話には出ず、代わりに留守番電話に繋がった。
だから詳細は省き、とりあえず帰ってきた事と連絡が欲しいという旨だけ伝言として残した。
正直不在を狙って掛けたワケだが、先延ばしにしたところで事態は変わらない。
そう......不景気の煽りを受けてマレーシアでのプロジェクトが頓挫したせいで、これまで電気系エンジニアとして海外でバリバリ働いてきた会社を辞めて、急に無職になりましただなんて言おうものならば、下手したら田舎に強制送還されてしまうかもしれない。
その現実を想うと、胃がキリキリと痛んだ。
しかし次の仕事を探したところできっと、私の求める条件をすべて満たす職はすぐには見付からないだろう。
29歳という年齢も、今日まで勤めてきた会社での半端な役職も実績も、女性であるという事も、全部マイナスにしか働かない。
富士山よりも高いプライドのせいで、国内に戻され、明らかに畑違いな庶務課へ異動するよう告げられたことにぶちギレて辞表を叩き付けたため、自己都合による退社扱いとなってしまったから失業保険の給付が始まるまで、職が決まらなければ無収入。
今からおよそ二年前、海外赴任が決まる少し前に購入したマンションのローンも、まだまだたっぷり30年近く残っているというのに。
それでもいつまでも空港のロビーに突っ立っているワケにもいかないし、とりあえず家に帰ってのんびりしたい。
そしてさっさとひとっ風呂浴びて、今日だけは全てを忘れてビールの一杯でもぐいっと引っ掛けたい。
じゃなきゃこんなの、やってらんない。
贅沢は、これで最後。
明日からは、真面目に仕事を探します。......だから。
建物の外に出ると、まるで悩み事なんてなーんにも有りませんよというような涼しい顔をして、当たり前みたいにタクシーに向かい手をあげた。
そして大きなスーツケースを手に車に乗り込むと、笑顔で自宅住所を告げた。

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