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本棚に追加ひとつ屋根の下 side千尋
のそのそとスーツケースを手に取ろうとしたのだけれど、そこで彼は面倒臭そうにワシワシと頭を掻き、予想外な事を大きな声で言い始めた。
「だぁぁぁぁあっ、もう!
誰も今すぐ出ていけなんて、言ってないじゃん。
......今日はもう時間も遅いし、泊まってけば?」
「......へ?」
思わぬ提案に驚き、変な声が出てしまった。
すると彼は仏頂面になり、少し早口で告げた。
「行くあて、無いんだろ?
ただし俺はベッドで寝るから、アンタは床な!」
プイと顔は背けられたけれど、これはこの人なりの善意なのだろう。
......でも。
「いやいや、そういうワケにはいかないので。
だって見ず知らずの男性と、一夜を共にするとか......」
私の言葉に、ますます深くなる彼の眉間のシワ。
それから彼はもう一度こちらを向き、またしてもふんと鼻で笑って言った。
「は?手を出すかもしれないとでも、思ってんの?
俺が?......アンタに?」
確かにこんないかにもモテそうな男が、わざわざ好き好んで私みたいな地味女に手を出すはずがない。
しかし親切心で言ってくれたのだとしても、言い様というモノがある。
小馬鹿にしたようなその態度と表情に、初対面にも関わらず苛立った。
不機嫌が顔に、出てしまったのだろう。
彼は私の顔を見て、呆れたようにまた口元を歪めた。
「別に俺は、どっちでもいいよ。
ここが嫌なら今からホテル探すなり、野宿するなり好きにすれば?」
そう言って彼は、さっきまで私が寝ていたソファーに腰を下ろした。
そして何事も無かったみたいな顔をして、私の存在を完全に無視したまま、リモコンを手に取りテレビのスイッチをいれた。

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