第3話  研修開始

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第3話  研修開始

スイス西部、レマン湖の南西岸に位置する都市ジュネーブに国連の事務局があり、名目上は国連の外郭団体となっているが、インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチームの対外情報機関(日本版CIA)通称ジェシカのヨーロッパ本部が置かれていた。古くは、日ロ戦争時代に活躍した明石機関からの歴史を持つ組織で、代表は山田太郎、当然本名ではないが、明石一族の末裔とも言われている人物、通称白髭と外務省関係者数名、伊賀忍者の末裔と噂されている、上野さくらと関係者数名、元皇室の竹岡来栖と関係者数名といったメンバーがスイス本部を運営していた。 「なんでスイス何だよ!スイス国内だけでも公用語が四つも有るのに。」と同期の研修生がぼやきながらガイドブックを見ていた。ジュネーブはスイスの中でもフランス語圏に属しているが、国民の六割はなまりの強いドイツ語を話し、イタリア国境近くは、イタリア語でその隣は、本来のスイス語とも呼べるロマンシュ語であった。歴史的にここが文化の交差点であり、山岳地帯がある意味のガラパゴス効果を生んでしまったと言う状況でもあった。国連の事務局内はほとんどが英語で、ジェシカ本部内は英語と日本語が公用語であるため、対外者の事も配慮して、本部内では日本語が使われていた。国連の事務局自体が、大学敷地内にあるため、健司たちは、スイスの大学に留学したような状況で、研修を受けていた。観光地でもあるジュネーブで、有名な大噴水や大聖堂と言った名所を素通りして、研修生たちは、一般の学生にまぎれ、名目上は日本語教室の交換留学生の様な立場で、研修を受ける日々が数週間続いてから、課題が出された。  「ミッションオブポーン」と名図けられた課題は、三人一組になり、各国に居るエイジェント役の教官と接触しその指示に従う任務で、指示通りの情報を入手し、本部に帰り付けば成功と見なされるが、その情報には、偽物も含まれていて、状況によっては、各国の警察組織に捕まり日本へ強制送還されるケースもある。健司は、佐藤檄と森山みどりとの三人でチームとなった。課題の国に着くと、まず拠点となるセーフハウスを見つけ、そこには、だれか一人が残り、他の二人がミッションを遂行すると言う形式で進められる。課題の国はドイツだった。 「バイロイト音楽祭?」と檄が訝しそうに言うと 「あー、ワーグナー音楽祭だ、ニュールンベルグの少し北の田舎町だ。」と健司が言うと 「行ったことがあるの?」とみどりが訪ねた。 「ない。海外に出たのは、今回が初めてだからね。ただ、ワーグナーは大好きだ。だからネット旅行なら随分してるけど。」と言う健司に、二人は不安そうな顔をした。出発は、課題を貰ってから三日後、それまでに現地の下調べをして、現地までのルートを探し、列車の手配や、乗車券、周遊券の様な物があれば、それも調達しておく。荷物は最低限の身の回りの物と緊急キットと呼ばれる小型の赤十字ポーチを持たされた。それは文字通り薬やソーイングセットの他に、数個のダイヤとブラックカードが含まれていて、緊急事態に使うための最後の切り札の様な物だった。 外見上は学生の貧乏旅行の様な設定で、ジュネーブからバーゼルで乗り換えドイツに入ると、ニールンベルグへ向かう十時間ほどの国際列車の移動を選び出発した。アジアからの観光客が増えたとわ言え、東洋人の三人組はそれなりに目だっていて、田舎の人達はそれなりに親切だが、都会ともなると、うっかりすると騙されたり、足元を見られ、パンを買うにも法外な値段を吹っ掛けられる始末であったが、最初、中国人と間違えられていた三人が、日本人だと分かるとそれなりに接し方が改善された。そんな中、檄がうっかりスイスドイツ語を使った時に、如何にも田舎のお上りさん的な扱いを受けて以来、英語と日本語で通すようにしていた。 ニュールンベルグでアパートメントホテルをとりあえずのセーフハウスとし、そこを拠点に音楽祭のチケットの入手や、セカンドハウスとして、ヴェールダー湖畔の公園の近くに一軒家を借りた。そんな作業に一週間を要して、音楽祭は翌週からの開催と迫って来ていた。 「エイジェントは、どのタイミングで接触して来るか?」と檄が 「こちらとしても、接触し易い環境を作り出す事が必要だろうな。」と健司が言うと 「やっぱり、カップルの方が良くない。音楽祭に男二人連れて何か変だし。」とのみどりの提案で檄と健司のじゃんけんの結果、檄が待機組となった。 「健司って、結婚してるの?」 「ああ、赴任前の6月に簡単な式だけ挙げて入籍した。一年間ほったらかしにする分けだから,ケジメみたいな物かな。」 「ふーん、結構律儀ね。私は彼とは別れてきたわ。」 「えー、何で?」と檄が聞くと 「彼奴、一年もほっておいたら、絶対浮気するし。」 「ああー、俺は彼女は居ない。ああ、でも姉と妹が居るけどな。」 三人が、ニュールンベル大学近くの学生相手の食堂で食事を済ましながら、短い身の上話をしてから、セーフハウスに戻った。
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