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だいぶ登山靴の歩き方にも、慣れてきた。ザクザク坂道を登っていく。
登ってすぐ、車道を渡った。
「ごめん、ちょっと水飲んでいい?」
自分でも引くくらい、汗が出ている。首に巻いたタオルはすでにびしょびしょ。頭を振ると、汗がぼたぼたと垂れる。
「こんな汗出るかね? すでに暑いや」
持ってきた500mlペットボトルが1本、もう空になった。
再び、歩き出す。
金時山は、坂を踏みしめるよりも、岩をよじ登る感覚に近い。
ゴツゴツした石場に足を引っかけて、よいしょよいしょと登る。
ふくらはぎより、太ももに来る。
しかし、己の体が重い。重すぎる。何だこの荷物は。誰だ、こんな重い体してるのは。私か。
「自分の体が重い!」
思わずそう叫んだ私に、上から声が振ってきた。
「ハハ、みんな同じや」
顔を上げたら、知らないハイカーの兄ちゃんがニコニコ笑っていた。
しかし、タンクトップ姿の彼は細身で引き締まっていて、ランナーみたいな体をしている。励ましてくれるのは嬉しいが、全く説得力がなかった。
半分を過ぎたあたりで、いったん平地になる。
途端、異変を感じた。
体の力が抜けそうになる。上がった息が整わない。しっかり前を見ていないと、目が回りそうになる。
つい、屈みたくなるが、そうしたら倒れそうな気がしてできなかった。
この感覚、温泉に浸かりすぎて湯あたりしそうな感じに似ている。
「ごめん、ちょっとしばらく休んでいい? 結構……まずいかも」
恥を忍んで、S子に頼んだ。彼女の足を引っ張るのは承知の上だが、歩けなくなったら、迷惑どころの話ではない。
「いいよ、休もう。だって――くまちゃん、汗すごいよ」
傍から見ると、そうらしい。
しかし当の私は、ずぶ濡れになるあまり、もうよくわからなくなっていた。
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