山歩きの話~その3.寝不足・水分不足の金時山~

3/10
前へ
/126ページ
次へ
 だいぶ登山靴の歩き方にも、慣れてきた。ザクザク坂道を登っていく。  登ってすぐ、車道を渡った。 「ごめん、ちょっと水飲んでいい?」  自分でも引くくらい、汗が出ている。首に巻いたタオルはすでにびしょびしょ。頭を振ると、汗がぼたぼたと垂れる。 「こんな汗出るかね? すでに暑いや」  持ってきた500mlペットボトルが1本、もう空になった。  再び、歩き出す。  金時山は、坂を踏みしめるよりも、岩をよじ登る感覚に近い。  ゴツゴツした石場に足を引っかけて、よいしょよいしょと登る。  ふくらはぎより、太ももに来る。  しかし、己の体が重い。重すぎる。何だこの荷物は。誰だ、こんな重い体してるのは。私か。 「自分の体が重い!」  思わずそう叫んだ私に、上から声が振ってきた。 「ハハ、みんな同じや」  顔を上げたら、知らないハイカーの兄ちゃんがニコニコ笑っていた。  しかし、タンクトップ姿の彼は細身で引き締まっていて、ランナーみたいな体をしている。励ましてくれるのは嬉しいが、全く説得力がなかった。  半分を過ぎたあたりで、いったん平地になる。  途端、異変を感じた。  体の力が抜けそうになる。上がった息が整わない。しっかり前を見ていないと、目が回りそうになる。  つい、屈みたくなるが、そうしたら倒れそうな気がしてできなかった。  この感覚、温泉に浸かりすぎて湯あたりしそうな感じに似ている。 「ごめん、ちょっとしばらく休んでいい? 結構……まずいかも」  恥を忍んで、S子に頼んだ。彼女の足を引っ張るのは承知の上だが、歩けなくなったら、迷惑どころの話ではない。 「いいよ、休もう。だって――くまちゃん、汗すごいよ」  傍から見ると、そうらしい。  しかし当の私は、ずぶ濡れになるあまり、もうよくわからなくなっていた。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加