視覚と聴覚のズレ

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 夜の似合う曲を聞きながら、暗い夜道を歩くのはなかなかよい。  1番が終わり、2番が終わり、最後のクライマックスへと向かう。  ラストのサビに移る直前、一拍間が空く。  つまりはためるのだ。ためて、ジャーンと盛り上げるのだ。  そのジャーンの瞬間。前方、左に曲がる角から。  散歩中の柴犬が現れた。  もうタイミングバッチリである。ジャーンで柴犬だ。  狙ったかのようなBGM、素晴らしい。完璧な編集と言わざるを得ない。  しかもかの犬、散歩が楽しいのか、満面の笑みで舌を出し、足は若干スキップ気味で、テンテンと跳ねている。可愛い。  瞬間、今まで脳内を駆け巡っていたカッコいいイメージは霧散した。  合わない。可愛い柴犬と曲が圧倒的に合わない。  断っておくが、私は柴犬にもこの状況にも怒ってなどいない。ガッカリもしていない。ただ、混乱していた。  耳に流れてくるワンオク、柴犬テンテンテン。  お散歩楽しそうでよかったね……。  すっかり混乱した私の頭が出した思考は、遠く後ろに過ぎ去った柴犬へのほっこりした気持ちなのであった。
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