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当日。
私は電車に揺られ、人の多さに引いていた。
一体、どこからこんなに人が湧いてくるのか。どこかに人の湧く泉でもあるんじゃないか。
そんな風に思ってしまうほどの、人の多さ。
その点でも、レンタルスペース作戦は正解だったかもしれない、などと考えていると。
通知が来た。
中央線ユーザーの、S子である。
『ごめん、乗ろうとしていた電車がかいじだった』
説明しよう。
かいじとは、中央線を走る特急列車である。
11時半に間に合うために乗ろうとしていた電車が、かいじだった。彼女はそれに気づかぬまま駅に着き、いざ乗ろうとしたらいつもと違う車両に驚き、車内で料金を払えばよかったのかもしれないが、怖気ついて見逃してしまった。こういう次第であった。
『34分着です……』
まあ、5分くらい大したことはない。
『お詫びに、かいじと次の待つ間にお菓子買ってきた』
それ、すごくないか。
この時点で、1人遅刻することは確定した。
なんだろう、このドタバタ感が、返って安心すら覚える。
そんなことを思いながら、渋谷に到着し、集合場所に着けば、C子がすでに待っていた。
「久しぶり!」
「久しぶりだね!」
「元気にしてた?」
「元気にしてた?」
「あははは」
「あははは」
本当に嬉しいとき、人は言葉をなくしてひたすらに笑うのだな、と思った。
そんな折、今度はN子から連絡が来た。
『すみません遅刻です、なんか迷子になりました』
「?」
何事かと首をかしげる、C子と熊野。
『説明もできない、ごめん』
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