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ああ、これはいわゆる天使と悪魔の言い争いってやつだ。
時計を見れば、11:30を過ぎている。マズい、こんな時間に願書なんか書いているからだ。
しかし、提出期限が近い今、後回しにしないで終わらせてしまいたい。
明日も仕事、5:30起きなんだよ。日付が変わる前に寝ないと。
私は天使の声に耳を傾けた。
そうなのだ。書き損じている時点で、どちらにしろ恥ずかしいのだ。ならば、一時の恥を取るか、リスクを取ってごまかすかしかないのだ。
「やれやれ」
しまったばかりのシャチハタに手を伸ばす。
小さな1文字に大きすぎる印鑑は、デンと存在感を放っている。
あんなに主張の激しかった『フ』は、印鑑と二重線を前にすっかり影をひそめてしまった。
かなりみっともない願書が出来上がった。
見た目には美しくないけれど、ドジな私なりの誠意が伝わればいい。ごまかす気はないし、注意事項もちゃんと読んで言う通りにしたんだからいいでしょ、と思いつつ、願書を封筒にしまった。
あの判断が功を奏したのかどうかはわからないが、願書は無事に受理され、試験を受けて合格することができた。
結果オーライだったので、今こうして笑い話にできているが、もし願書を受理されない、もしくは不合格であったら、この話はお蔵入りしていたと思う。
しかし、フリガナを間違えて訂正印を押す人なんて、他にいるのだろうか。
おそらく、今回の試験の受験者の中には、訂正印を押した人もいるだろう。だが、その内容の情けなさで競えば、きっと私が優勝だと思う。
これは、自信を持って言える。
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