24人が本棚に入れています
本棚に追加
天狗焼きを食べ、さあ最後のひと踏ん張りだと立ち上がる。
少し小腹は満たされたが、昼食はまだだ。
この後、山を下りてからご飯を食べ、近所のスーパー銭湯で汗を流す予定である。
それを楽しみに、下るのだ。
下るのだが……。
もうこのあたりから、嫌な予感はしていた。
行きはよいよい、帰りは怖いとは、よく言ったものだ。
上りの時から、それなりに筋肉に負荷がかかっている感覚はあった。しかし、筋肉痛ほどのひどい痛みはなさそうだと思っていた。
下りは、また違う筋肉を使い、違う部位に負荷をかけるのだ。
急勾配の坂を踏ん張る。脚の全てが痛い。太ももも、ひざも、ふくらはぎも、足裏も、足首も。そして、つま先も。
少し力の入れ方を間違えたら、どこかピシッとやられそうだ。
「下り坂こそ、登山靴が効いてくるんだよね」
とS子が説明した。
彼女は、いつも通りのオーソドックスな登山の格好をしている。靴もリュックも、ズボンもシャツも上着も、登山用。
「登山靴って、靴の中で足が動かないように止めてくれるんだよ。だから、つま先が靴に当たって痛くなったりしないし、そもそも踏ん張る力もそんなにいらないんだ」
なるほど……。
今の私が求めているのは、登山靴かもしれない。
あとちょっと。この、あとちょっとがきつい。
何なら、あとちょっとかと思っていたら、全くちょっとでなかったりする。何だこりゃ。
登山靴があれば、少しは変わるんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!