山歩きの話~その1.高尾山~

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 天狗焼きを食べ、さあ最後のひと踏ん張りだと立ち上がる。  少し小腹は満たされたが、昼食はまだだ。  この後、山を下りてからご飯を食べ、近所のスーパー銭湯で汗を流す予定である。  それを楽しみに、下るのだ。  下るのだが……。  もうこのあたりから、嫌な予感はしていた。  行きはよいよい、帰りは怖いとは、よく言ったものだ。  上りの時から、それなりに筋肉に負荷がかかっている感覚はあった。しかし、筋肉痛ほどのひどい痛みはなさそうだと思っていた。  下りは、また違う筋肉を使い、違う部位に負荷をかけるのだ。  急勾配の坂を踏ん張る。脚の全てが痛い。太ももも、ひざも、ふくらはぎも、足裏も、足首も。そして、つま先も。  少し力の入れ方を間違えたら、どこかピシッとやられそうだ。 「下り坂こそ、登山靴が効いてくるんだよね」 とS子が説明した。  彼女は、いつも通りのオーソドックスな登山の格好をしている。靴もリュックも、ズボンもシャツも上着も、登山用。 「登山靴って、靴の中で足が動かないように止めてくれるんだよ。だから、つま先が靴に当たって痛くなったりしないし、そもそも踏ん張る力もそんなにいらないんだ」  なるほど……。  今の私が求めているのは、登山靴かもしれない。  あとちょっと。この、あとちょっとがきつい。  何なら、あとちょっとかと思っていたら、全くちょっとでなかったりする。何だこりゃ。  登山靴があれば、少しは変わるんだろうか。
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