山歩きの話~その1.高尾山~

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 この日、私は無事に下山した。  もちろん、登り慣れているS子は、平気そうな顔。  そのままスーパー銭湯に行き、カレーうどんを食べ、温泉に入った。 「うわあ……これこれ」  温かいお湯に身を沈める。疲れて凝り固まった体が、ほぐれていく。 「これさ、温泉効果で筋肉痛も和らぐかもね」 と私は言った。  いや、この時は本当にそう思っていたのだ。  そして、帰路の間は実際に痛みも強くなかったのだ。  筋肉痛。彼らが本気を出すのは、まだ先のこと。  翌日。全身が痛かった。  歩けない。脚中が筋肉痛になっている。  さながら、ペンギンのようだ。  いや、ペンギンの方がもっとまっすぐ歩けるだろう。  階段を下りられない。ひざを曲げて、下に重心を傾けた瞬間に耐えられず、激痛が走るのだ。  だから、足を極力延ばして、やはりこちらもペンギンの要領で降りるしかない。  高尾山に行った翌日から数えて、たっぷり3日はその状態であっただろうか。人を捨て、ペンギンとして生きてきたように記憶している。  そして、せめてもと履いたジョギング用のスニーカーは、たった1度の登山で底に亀裂が入ってしまった。  私の勝手な考えであるが、おそらくは柔らかすぎたのだ。  ジョギング用だから、スニーカー類の中でも衝撃を吸収し、動きやすいように作られている。  ボコボコの石や岩場を踏むたびに、靴にも相当な負荷がかかっていたに違いない。  悲しいが、これではジョギングにも使えない。底の割れた靴にはそっと別れを告げ、新たに同じスニーカーを買い直したのであった。  さあ、こんな目に合った私に授けられた、選択肢は2つ。  1つは、もうしばらく登山はやめようと決意するか。  もしくは、登山靴を思い切って買って、引き続きS子に連れて行ってもらうか。  お察しであろう。私は後者を選んだ。
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