書類が下手な大人

7/7
前へ
/126ページ
次へ
 ボールペンで名前を書く。もうウン10年書き続けてきたマイネームだ。これはさすがに間違えない。  次は捺印である。記名欄の右端に、㊞と書いてあるので、そこに押せばいいものを――。  記名欄のすぐ隣に、『給与の支払者受付印』と書かれた丸がある。  これはつまり、給与の支払者――会社側の印が押されるべきところなのだが。  もうお分かりだろう。  私はそこに捺印した。  押した瞬間、間違えたことに気づいた。  どう見てもおかしい。給与の支払者と書いてあるだろう。何故、ここに熊野の名があるのか。  あとコンマ数秒でも早く気づいてくれれば……と嘆くものの、時すでに遅し。  年末調整を受ける者、熊野。給与の支払者の印鑑も熊野。意味がわからない。  どうして、そんなうっかりが誕生してしまったのか。自分で考えても、正直よくわからない。  あえて挙げるなら、正しい㊞よりも、給与の支払者印の○の方に目が行ったとしか言えない。全くもって、情けない。  さて、毎度のごとく、問題はこの情けなき間違いを、どう処理するかである。  こんな重要な書類、思いつくのは訂正印くらいしかない。修正テープなんてダメだろうし、新しいのもう1枚下さいって、あなた学校のプリントじゃないんだから。  しかし、果たして捺印に捺印で訂正とは。  一応、会社の担当に確認してみた。 「あ、二重線で訂正印押して頂ければ大丈夫ですよ~」  明るい返答が私の心にグサッと刺さる。  本当、アホで申し訳ありません……。  結果、熊野の印は二重線で消され、その隣にまた熊野の印が押されるという、奇妙な図となった。  よく考えてみれば、この後さらに、本来押されるべき印鑑が加わるのである。  1か所しかない欄に、3つの印鑑。しかも、そのうち2つは個人名で1つは訂正印。  パッと見たら、滑稽なことこの上ない。  税務署の担当も、こんなもの見たら失笑であろう。  それとも、この広い世の中においては、爆笑ものの間違いをしてくる人もやはりいるのだろうか。  私のドジが全国基準のどの辺りにいるかも含めて、ちょっと気になる。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加