さよなら3500円

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さよなら3500円

 我が家の部屋の明かりは、カバーを外すと中に蛍光灯が4本ついている。  だいぶ前から、このうち2本が切れていた。  だがしかし、生活に支障はない。  むしろ、煌々と明るいよりは、少し落ち着いている方が私の好みである。  電灯のひもを何回か引っ張ると、1本だけ着くモードになることが判明した。  いいや、これでちょうどいい。  まあ、全部切れたらさすがに変えましょうか、くらいのつもりでいた。  ところが、訳あって友人を自宅に泊めることとなった。  うーん、これはさすがに変えるべきだろうか。  私1人なら本当にどうでもいいのだが、仮に彼女が部屋を暗いと思うようでは、申し訳ない。  何より、友人がいるタイミングでラストの1本がロストしたら、最悪だ。  彼女が来る前の週末に、取り換えよう。ならば、その前に新しい蛍光灯を買っておかなければならない。  仕事終わりの木曜日、ぶらり途中下車して某家電量販店に向かった。  電灯関係が売っているフロアは4階。途中、2階でスマホケースを取り(ずいぶん前からボロボロになっていたのだ)、3階で腕時計の電池交換を依頼した(これも前から止まっていたのだ)。  ようやく、電灯売り場に着く。  家には、前回変えた蛍光灯を置きっぱなしにしていた。わざわざ外さなくても長さをひと目で確認できるようにするためである。  さて、いろんな長さがある。  40形。いやいや、こんな長くない。  32形。ああ、これくらいだったか。  20形。ん? こんな短くはないよな。  32形を手に取ってみる。お値段、1700円ほど。  前買った時、こんなに高かったっけ?  メーカーの違いもあるだろうけど、1本数百円くらいで買えた気がする。  心の奥でチリつく違和感。  今日のところは買うのをやめて、もう1回確認した方がいいか?  いや、と売り場を見る。  32形だけ、やけに本数が少ない。というか、2本しかない。  明日また夜に来て、売り切れてたら嫌だなあ。  ええい、買ってしまえ。  蛍光灯を2本抱えて、電車を待つ。  もう、今日帰ったら早速取り替えようか。  そうすれば、週末にやるべきことが減る。  うん、我ながらいい考えだ。  電車に揺られ、ふふんとうなずき、最寄りの駅で降りて、気が付いた。  夜じゃん。  電気消したら何も見えないよ、取り替えられないじゃん。  よほど、疲れていたのか何なのか。  相当に頭が回っていない。
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