カーペット騒動

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 翌日。  定時になった瞬間に席を立ち、急いで帰宅した。  最短で帰れば、クリーニングの閉店時間にギリギリ間に合う。  仕事中、ずっと考えていた。  もう店に行って、なくしましたと申告するか。  あるいは、今日だけもう1回部屋の中を探してみるか。  しかし、仕事終わりにあの部屋を探すのは、さすがに疲れる。  もういい。カードも再発行してもらおう。お金もかかるだろうが、仕方ない。ないものはないのだから。  店に入ると、先客がいた。  店員さんは基本1人、小さな店なのである。  前の男性が退店したところで、本日の要件を伝えた。 「すみません、メンバーカードと控えをなくしてしまいまして」 「お引き取りということで、よろしいですか?」 「あ、はい」  店員さんが、レジを打つ。 「登録している電話番号の、下4桁を教えていただけますか?」  なるほど、それで本人確認をするわけだ。 「××○○」 「はい、熊野さまですね」  途端、店員さんが、パンと両手を叩いた。 「そうだ! 熊野さん、こちらでカードを預かっていたんですよ」 「?」  レジ横の、小さなプラスチックケースに手を伸ばす。ヒョイっと出てきたのは、紛れもない、私のカードであった。 「!?!?」 「うちの者が渡しそびれたのか、お忘れ物なのかはわからないんですけど」  8月の時に対応した店員さんとは、違う人である。 「ああ……ああ、よかった」  脱力すると同時に、笑ってしまった。  折り畳み式のカードの中には、ちゃんと控えも挟まっている。  というか……何だこりゃ。  正直、ズッコケたい気持ちでいっぱいだ。  ドリフのたらいが落ちて、頭に直撃して、ゴーンで寄り目になってありゃりゃとよろける。それくらいやりたい気分である。  あと、見つけた時点で教えてよ。  まあ、とにもかくにも、私は無事にラグを引き取ることができた。  よかった、よかった。  うっかり、もう1回探してみようなんて思わなくてよかった。  やらかしてしまったものは仕方ない。堂々と言う方が、解決には近道なのだ。  経験者は語る。  あとは、週末に敷くだけ。冷たい床ともおさらばだ。  ラグを抱えて家まで歩きながら、どうにもおかしくて1人で笑ってしまった。  夜の闇に紛れて、すれ違う人には見えていなかったことを祈る。
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