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「暖かい格好しろよ。ちょっと飛ぶさかい」
「えっ?」
玄がにやりと笑って言った。私は何が起こるか分からなかったが、とりあえず羽織を二枚着た。それを見た玄は、荷物を私に持たせると、私ごと荷物を抱き上げ、背中の翼を広げて飛び立った。
「うわぁっ、すごい」
「この方が早いし楽やからな」
「お屋敷はいいの? 大きな門閉めただけでしょう?」
「稽古あるさかいな。大丈夫や、稽古は朽葉に頼んであるし、儂らが帰るまでの留守は朽葉と山吹に頼んである。あと、萩もな」
「そうなんだ。じゃあ大丈夫だね」
「あとは自分や。ちゃんとええ着物着てるんやから、ちゃんと整えるんやで。ほら、もう着くさかい」
玄は小さな屋敷の門の前に降り立った。私は羽織を一枚脱いで、赤い着物と髪を整えた。
「すんません。玄です」
「おぉ、あんたか。お嬢の面倒見てくれてるってのは」
門から出てきた大柄の男はそう言って私を見た。
「用件は手紙の通りや。こいつの親父ってどいつやねん」
「それなんだがな……後であんただけに話す」
男はそう言って私達を客間に案内した。そして玄と別の部屋に行った。
暫くして戻ってきた玄は私を見て笑ったが、いつものそれより暗かった。
少しして、男の案内で玄と一緒に大きくて分厚い扉の前に行った。
「葵、入るぞ」
と、男がそう言って中に入った。そして扉を閉めた時、部屋の奥からすごい早さでこっちに何かが来た。そして、何かは玄が私の前に出した右腕に食らいつき、言った。
「喰わせろぉ、そのっ……」
襲ってきた金髪の鬼、葵は、私を見ると手を止めて言った。玄は腕を私の前からそっと離した。
「紅葉……」
「うん。会いに来たよ、父さん」
「紅葉ぁ」
葵は私を抱きしめた。私も葵に抱きついた。少し話して、葵は玄を見て笑うと、私の頭に羽織を被せてそっと寝かせた。
「……父さん?」
「少し眠っててくれ。俺はここにいるから、な?」
葵が私の手を握ってた。私はその手を握ってそっと目を閉じた。
少しして、どさっ。と何かが倒れる音がした。そして、葵の手の力が抜けていった。私は頭の羽織を取り、上体を起こすと、葵が血を流して倒れていた。そして玄が血の付いた太刀を持っていた。そして素早く血を拭くと、鞘に収めた。
「何で?」
「……半刻後にはここを発つ。屋敷に帰るなら、儂の元に来い」
玄は何も答えずに部屋を出た。私は葵の胸元に突っ伏して泣いた。
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