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 翌日、私を迎えに来たのは萩だった。  「色々、ありがとうございました」 「あぁ、気をつけてな」 私は少し頭を下げると、男は笑って私達を見送った。  「そうか、大変だったな」 今までの事を聞かれて、玄が葵を殺した事以外の今日までの事を全部話すと、萩は低くそう言った。  「どこで暮らすかは、屋敷に戻りながら決めればいいさ。先生曰く、先生以外だったら俺か朽葉と住むのがいいだろうってさ。山吹は甘やかすだろうし、他は弱すぎて問題外だってさ」 「厳しいね」 「ハハッ、そうだな。まぁ、それだけ大事なんだろうな、紅葉の事が……」 「そう、なのかな」 「多分な」  萩はそう笑うと私を背負って険しい山道を登っていった。  「雨降りそうだなぁ」 萩は懐から紐を取り出すと、桃色の頭巾を指差して言った。 「これは、外しとくか」 私は頷いてそれを外し、畳んで懐に入れた。それを見届けると、萩は笑って私を背負い、紐で私の背と萩の双肩をくくると言った。 「とばすから、しっかり捕まってろよ」 「うん」  萩は凄い早さで山を越えると、屋敷の前でゆっくり止まった。  「ほい、到着」  「あっ、ありがと」 私は萩の背中から降りた。そして萩の手を握りながら、二人で屋敷へ入った。  「おぅ、帰ったか」 玄は最初に会った時と同じように仏頂面でそう言った。私は萩の手を強く握って言った。  「ありがと、萩。あのね、内緒の話するから離れてて」 「分かった」 萩は優しく笑って手を離し、東側の道場あたりへ去っていった。  「……何や?」  私は玄の元に近寄った。玄は少し眉間にシワを寄せてそう言った。 「あのね、大きな鬼のお兄さんから聞いたんだ。苦しい葵を玄が殺して、楽にしてくれたって事……」 「そうか」  玄は庭の辺りを見ながら返事した。私は続けた。 「あのね、葵の村のみんなはね、やっぱり私が嫌なんだって。だからいろんな人の所で暮らして、お頭巾被ってても、いい子にしててもだめだから、村では住めないんだって……」 「……そうか」  玄は返事をしながら、西側へ歩いた。いつもより早足で、玄が少し怒ってると思った私は、慌てて玄についていった。 「待って……」 途中で躓いて、立ち上がりながら言った。玄は玄の部屋の前辺りで立ち止まった。私は玄に近付いて続けた。  「あのね、だからね、私、わがまま言わなかったんだよ、ずっと……でも、玄には言ってもいいんでしょ?」  玄は、玄の部屋の端の縁側に座ると、私を見て小さく笑って応えた。 「あぁ。でも、萩とか朽葉にも言ってもええよ。山吹にもな」 「ほんと?」 「あぁ。まぁ、少しずつやで」 「わかった……ねぇ玄、わがまま言ってもいい?」 「ええよ」 玄は小さく笑ったまま応えた。私は唾を飲んで言った。  「あのね、私、玄と一緒に暮らしたい」  私は両手を握りしめて言った。すると玄は、普段通り淡々と言った。 「そうか」 「いい?」 「ええよ」 「ありがと」 私は玄に抱きついた。普段と変わらない玄の声が何故か優しくて、私はそこで泣き出した。玄はそっと抱き返してくれた。  それから、たまに玄と二人で客間の縁側に座って茶を飲む事が増えた。親代わりやからな。と私がわがままを言うのを許してくれる玄は、山吹より甘いのではないかと思いながらも、私はそれに甘える。そして今夜も、縁側に座る玄の背中を見つけて、私はそっと駆け寄った。  
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