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 「この子の親代わりをしてくれますか?」  近所で寺子屋兼孤児院を開いてる友人が、小さな女の子を連れてそう言ってきた。  「誰に頼んでんねん、月白(つきしろ)」  「ここには(げん)しかいないのでは?」 友人、月白がとぼけて言った。儂は女の子に茶菓子を差し出し、台所に月白を連れて行った。 儂は茶を淹れながら、後ろの月白に言った。  「儂にガキが懐かんのは知ってるやろ?」 「でも、お弟子さんは多いでしょう?」 「あらぁ、一応名の知れた剣士やからや。儂はそれしか教えられへんし、親代わりなんて無理や。第一、儂に親なんて居ぃひんさかい、親の事なんて分からへんし……」  「子どもの事を何よりも愛しく思っていれば、良い親になれますよ。まぁ、私もよく分からないまま孤児院の先生なんてしてますけど」 「自分は元々子どもに好かれる奴やからええやろ。ちゅうか、孤児院で面倒見るんちゃうんか?」  儂は月白を見た。月白は悲しそうに笑って答えた。 「彼女の瞳見ましたか? あの紅い瞳」 「……あぁ、見た」 「妖怪と人間の間にできた子、半妖(はんよう)の証です。それを知っている子ども達は、彼女と共に暮らしたくないと言って聞かないんです。それに、不必要に彼女を避けているのをよく見かけるので……彼女の安らげる所を作ってあげたいのですが、私の元では難しいのです。だから、出来れば貴方に、と思いましてね」  月白は俯いて笑った。儂は頭を掻いてため息をつくと、急須と湯呑みを乗せた盆を持って応えた。 「分かった。まずはこいつの親のところ行くわ」 「え?」  「こいつの親の居所教えろ。雪が溶けたらそのガキ連れて行くわ」  「……あまり気は進みませんが、分かりました」 月白が渋る理由はまた後日聞くとして、儂らは客間に向かった。  客間に戻ると、女の子は隅に座ったままこちらを見た。茶菓子に手はつけていなかった。  「ほら、喉乾いたやろ。ちょっと冷まして飲みぃ」 儂は小さめの湯呑みを差し出した。女の子はゆっくりそれを両手で持つと、儂と月白を見た。儂が茶を飲むと、女の子もゆっくり茶を飲んだ。  「紅葉(くれは)、今日から貴女の親代わりとしてお世話してくれる玄です。恐い顔してますが、優しい妖なので安心してくださいね」 月白が言うと、女の子、紅葉は頷き、儂を見た。  「く、紅葉です。よっよろしくお願いします」 「玄や。よろしゅうな」 「……寺子屋は通わせてくださいね。遠いので、次に来るのは秋口からでいいですよ」  「秋口て、随分先やな」 「少しお休みした方が良いと思いますからね」 紅葉は少し俯いた。それを見て月白は困ったように笑った。  暫くして、月白は帰った。儂は紅葉の部屋を用意してやると、客間を片付けて近くの縁側で昼寝をした。
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