つまり世の中確率である

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「450万??おいおい、冗談だろ…?まじ、まじなのか?」  動揺を隠せない静真は僕の半泣きに近い顔をまじまじと眺めながら、乾いた笑みを浮かべた。  「ははは、すごいな」  最早かける言葉もないのか、すごいとしか言いようがないのか、それともオブラートに包もうとして出た言葉だったのかわからないが、僕も口端をひくひくさせて「すごいよなぁ」とオウム返しをする他なかった。  「どうしてそんなことができたんだ」  純粋な疑問を静真は言うがどうしても何も金が懐にあったからである。  「ハマってしまったんだ、マンホールに引っ掛けたハイヒールの如く」  もしくは才能といっても良いかもしれない。ギャンブルとはいえ人として超えてはならない一線を軽く超えれたのだから。冗談めかして言うが、実際僕の心境は眼を向けたなら即深淵に落とされる程に崖っぷちであっぷあぷしている。あっぷあぷなら、もう落ちてるか。  「だから、あれほどギャンブルはするもんじゃないと言ったじゃないか、俺ではないほうのお前の友人が」  「…、本当にそうだった。僕は阿呆そのものだ、僕と静真とそれから響と誓い合ったのに、僕はすっかり無視した大バカ者だ」  静真はその場に立ち入っていないので、誓いの言葉が何か判らないと思うが僕らは一応今後一切金を絡めたギャンブルはしないと誓っていたのだ。現に記憶にないのか、静真は首を傾げ「誓い?」と言うが、僕は意図して答えなかった。静真が覚えていないのも無理はない。あの時静真は響が間違えて渡した缶チューハイでヘロヘロになってしまい、床でスルメイカとともにへにゃへにゃと戯れていたからだ。  「さて引き留めて悪かったな。しかもこんな重い話までプレゼントして。そろそろ目を付けられるんじゃないか?」  解体作業を中断し、これ以上無駄話をしていてはきっと静真が叱られるだろうと僕は立ち去る素振りを見せる。実際、タバコを吸いながらサングラスのお兄さんと話している女性がこちらに目配せをしている。あの横暴な雰囲気からしてこの仕事の大元だろう。静真もわかっているのか止めていた手を動かし始める。  「もう付けられているだろうな。俺はこのバイトに入って3日だが、もうレジまで任されているんだぜ、期待株ってとこだ。秘密だが、2,300円ちょろまかしているけど。今日のは簡易的な屋台だから、後10分くらいで俺の仕事は終わる。ちょっと待ってられるか?」  驚いたことに、静真はどうやら僕とまだ話したいようだ。是が非にも断るつもりはない。二つ返事で了解し、適当に腰かけて待っておくと静真に伝える。静真は早めに片づけると屋台のテント上のビニールを下すことに集中しだした。僕はどこか腰かける場所がないかと辺りを見渡し、無難に車止めブロックに座り込んだ。静真らがいる場所より少し遠くで数人の忙しない動きを眺める。あくせく働いている静真らと自身の境遇の正反対さにめまいがしそうだ。じわじわと450万+aをゴミに変えた実感が湧いてきていっそ倒れるのが正解かもしれない。  静真が先ほどの僕とのやり取りを遠巻きに見ていた女の子に指示を仰がれている。ぶっきらぼうに見えるが、丁寧に教えていてバイト3日とは思えない程ちゃんと仕事を振っている。相変らず女性は苦手なのかと思っていたが、話しかけられればきちんと答えれるようだ。なんとも、歯車として己の仕事を全うしている。(レジ金はちょろまかすが)中々に、したたかに社会を生きているじゃないか。  10数匹の馬たちがあくせく走っている姿を金により応援熱を上げていた自分は、この小さなコミュニティの中でもぼーっと結果を眺めることしかできないだろう。大学時代、学校が一番に問題視し、僕以上のギャンブル好きで、地元愛の強いただのヤンキーだった静真は根は腐ってなかったようだ。いったいどこで反転しちまったのだろう。  
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