つまり世の中確率である

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 邪魔になるから捲し上げていた袖を下ろし、小さめのリュックを背負った静真が手を振りながら近づいてくる。口には煙草を加えており、大学時代と何も変わらないきついワカバの香りに、良かった静真はすごい変わったわけではないと変な安堵感に包まれた。にしても、どうして賭け事を好む人間は高確率でスパスパしているのだろう。口寂しいのか、それともハマりやすい質なのか。  「行くか、久しぶりにオールしようぜ」  「呑めないお前が言うのか、言っとくが僕は焼酎をラッパしても体質的に酔えないからな。大体、お前の家に遊びに行っていいのか?だってお前…」  「あれはちゃんと解決した。向こうはまだ燻っているかもしれないけど、どうだっていい。今の俺の部屋にあるのは萎びたほうれん草だけ」  「それなら僕も気兼ねなく寄れる。近所のスーパーはまだ潰れてないよな」  「あぁ、なんやかんやでやってるよ。そうか、俺の家に遊びに来るのも直接会うのも久しぶりだったか。大体、東京にいたはずのお前がここにいる時点で縁もくそもないけどな」  駅員に切符を見せ通らせてもらう。改札が機能していない過疎具合に懐かしさより侘しさを感じた。  僕が上京したのは大学3年のインターンシップであくせくしていた時に、破れかぶれで突撃した外資系の企業への就職が決まった時からだ。時期的に言えば大学の単位が足り、3人で2日間だけ台湾へ旅行へ行った2月の頭くらいか。卒業式には一応出席しようとしたが、響も静真も出ないと言い、その時ギャンブル絶ちの誓いを立てることになる酒盛りをしたのだ、大学の寮から追い出される前に。1年前から今の今に至るまで様々なことがあったが、静真とはそれ以降パッタリ交流が途絶えてしまい、細々とライン上でやり取りを続ける以外に関りはなかった。遠方の友人より近場の敵とはよく言ったものだ(少し違う気もするが)。静真は保守的な人間で、家が地元で有名なうまいパン屋の息子で、顔立ちは少々幼く見えるが鷹のような目をして傍から見ればやさぐれてみえる。チンピラといってもいいが、それは流石に友人である僕の気が引ける。大学の寮で独り暮らしに非常にストレスを感じていた僕と違い、実家から通っていた静真は卒業後もバイトを転々としたり、たまに家業を手伝っている。収入は少ないが、物欲もない静真にとって金は幾らなくても困らないらしい。  「それに俺は独り暮らしを始めたし、何も気負うことはない」  「へぇ、遂に親のすねをかじらなくなったのか。そりゃニュースだ、悲惨な感じになってそうだが」  「だろう。ペットボトルを捨てるタイミングをいつも見失うから、ま、多少は汚く感じるかもな」  それを聞いて僕は嫌な予感でいっぱいになった。後数分で来る電車を待ちながら、夕方になってからの急激な冷えに手の先を擦り合わせた。静真はたまに融通が利かなくなるほど頑固な性格をしているが、大方は大雑把な性格である。実家暮らしの時に(あれが起こる前に)何度か訪ねた時、百発百中で静真の部屋には飲みかけのペットボトルが転がっていた。そして散乱した机の上に平気で食うものやハンガーやらを置き、カーペットの上に数枚のポテチが転がっていた。僕は立ち上がってやって来た電車に乗り込んだ静真に次いで乗り、ボックス席に対面して座る。見渡さずとも、乗客は何故か立っているリーマン風の男以外いそうにない。  「…生ごみじゃなく助かった」
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