つまり世の中確率である

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 静真の家は一見何の変哲もない一軒家だったが、中の様子に、これはもう悲惨の一言に尽きた。まず玄関から靴が脱ぎ散らかされている。靴箱が玄関に置けないから泣く泣くそうしているらしいが、だとしても揃えるくらいすればいいのにと呆れる。スリッパもない。フローリングを滑りながら移動する静真を追いながら途中開け放たれていた寝室らしき部屋の内部を流し見る。暗いのでわかりづらいが枕元のランプが付けっぱなしにされている。恐らく消し忘れだろう。  リビングに着くとついおぉぉとため息混じりの阿鼻叫喚が出た。捨て忘れまくったというペットボトルまみれのゴミ袋が5,6個。カーペットに散乱した洗濯物、それもパンツばかり。机の上には当たり前のようにハンガーと食いかけのコンビニ弁当が置いてあり、他にも紙類でごちゃごちゃしている。ソファには飲み終わったらゴミ袋に突っ込むであろう飲みかけのペットボトル。きたねぇと口に出さなかったことを褒めて欲しいくらいだ。  「帰っていいか」  静真は流石に引かれていることに気付いたのか苦笑い、もしくは照れ笑いを浮かべながら首元を摩りだす。  「ハハ…、ちょっと掃除します」  しずしずと腰を曲げ、落ちているティッシュのゴミを仕事中とは雲泥の差のトロさでちっちゃなゴミ箱に運び出す。本当に掃除が嫌いなんだろう。  仕方がないので僕も手伝う。大体静真一人に対して部屋が多すぎるのだ。1Kくらいで充分だろうに見たところこの家は1LDKっぽく、ファミリー層向けの賃貸だと僕は思う。東京だと敷金礼金家賃はとてもじゃないが払えないだろうが、人口減少に悩む県だと優良物件が安い値段で借りられる。どうやら3万もいっていないらしい。羨ましい限りであるが、この部屋に住みたいかと言われればまるで思わない。この様子だとシンク周りも悲惨だろう、絶対生ごみあるやん。  「うん、座る場所は確保できたから僕はここに体育座りする。一ミリも動かないからな、静真が動けよ」  「潔癖だな。わかった、この惨状は俺自身の責任だ、何か飲みたいものがあれば言ってくれ取ってくる」  「水でいいけど、他に何があるんだ?」  「水と氷と炭酸水」  「じゃあ、水で」  結局水しかないらしい。食べるものは机の上に投げ捨てられた廃棄物っぽいコンビニ弁当と床に未開封で転がされている菓子があるから適当につまんどいてくれと言われたので近くのチョコ菓子を体勢が崩れないよううまい具合に腕を伸ばす。2パック入っていたので静真に1パック渡す。  「テレビないんだな」  「あぁ。引越しするときに勧誘されたくなくて親戚に譲った。お前テレビ好きだよな」  「いやラジオの方が好きだが、今の時代スマホで全部こと足りるから俺んちもテレビはない。いや、もう見れないってのが正解か」  静真は当たり障りない話から始めようとしていたらしいが僕の返答により気になっていたことが前のめりになってしまい、結局ストレートに訪ねてきた。  「これからどうするんだ」  分配された遺産を数時間前に食い潰し、なけなしの給料も塵芥になった僕は、口内のチョコ菓子を無理やり飲み込み、喉を傷めた。やはり、炭酸水にするべきだったか。昼を抜いているので腹の奥に落ちてきたエネルギーに胃袋が歓喜を上げた。
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