つまり世の中確率である

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 静真は無愛想で、初対面の人間には委縮させるくらいに少々冷ための態度を取る。本人なりの防御反応だと思うのだが、あまり関心はできない。最初に麻雀を囲んだ時も僕がリーチを宣言するたびに睨んできたので、僕はこの野郎に一泡吹かせて生意気な面を真っ青にしてやると敵視していた。そのぐらいに誤解されやすい男なのだ。その後役満で親を終えた時に心底嬉しいのを咳払いで誤魔化し、爪でリズミカルに机を叩き出してからは意外に面白い奴かもなと考えを改めたが。  おそらく非常に真面目であるがゆえに、変なところで不器用なのだろう。言葉足らずで警戒心が強いので苦手意識を持つ者も多く存在した。本性は誰よりも単純で素直ないい奴なのだが、それを知るまでに鉄壁のガードを突破しなくてはならない。大学内で突破できた者は僕の知る限り数える程度である。そんな静真はなぜか一部の女子には高評価だった。異性の評価というのは本当によくわからない。大学の学食を一人静かに黙々と食う静真を発見するとその近くによくキャピキャピした女子が団欒しながら学食を囲んでいた。空いた席は他にあるというのに静真の隣の隣(隣ではないのが狡猾である)くらいの席に座っているのはどうしても意図的に思えてしまう。安いうどんを食うしみったれた姿が母性本能やらをくすぐるのだろうか。くすぐられたとしてもその母性は別の人にぶつけた方がいいと僕は思いつつ静真の目の前に座る。響は学食は食べないので二人で黙って目の前の飯に集中する。隣の隣くらいの席の女子が気になりつつ、僕はかつ丼を貪る。女子は集まる程に人目をはばからなくなると、三つ葉を口に放り込みつつ思う。  そんな静真には彼女がいた。身だしなみに気を遣わず、女っ気が一切ない奴だが意外にも可愛らしい彼女がいた。だからこそ、無駄な母性本能で静真に好意を抱くなと僕は思うが、一定数の女性から熱烈にアピールされたらしい。大学に入って妙にモテだしたと嫌味でなく疑問形で僕と響に愚痴ったことがあった。静真は男女関係なくぶっきらぼうで愛想が薄い奴だったので、当人もどうして碌に話してもない奴からプレゼントを貰ったりするのか不気味がっていた。貰ったプレゼントはどうしたのかと聞くと、丁重に送り返したという。自分には彼女がいると公言すればいいと響がアドバイスをするが、彼女のことになると途端に恥ずかしがり、いやいやいやとしか言わなくなるので、公言なんてできるわけがない。何がそんなに恥ずかしいんだか僕はわからなかったが、普段の無表情が鳴りを潜め耳を赤くしてる静真に強く言えなかった。  そして、とある騒動が起きてしまい、俗にいうあれ事件だが、その所為で静真は5年交際していた彼女と別れることになってしまったが、まぁつまり静真は中々にモテるということだ。そして静真自身の性格によりトラブルにつながりやすいということも。  僕は静真の話し出した近況に少々驚きつつも、やはり女性関係で充実していることにちょっとした嫉妬心を感じてしまった。とはいえその嫉妬は一時的なもので、次の瞬間には僕とは違う方向で不憫な待遇に同情した。    
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