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「佐倉」
卒業生が退場し、保護者のみとなった体育館で担任の先生がわたしを呼び止めた。
「挨拶、立派だったぞ」
「ありがとうございます」
本来であれば在校生も卒業生を見送るため式に参列するはずだった。
しかし今年は例年とは違い、極力人数を減らして卒業式が行われた。
卒業生、そしてその保護者は原則一人まで。そして先生たちに加え、在校生代表者一名。
それに選ばれたのがわたしだった。
「生徒会の引き継ぎは終わったか?」
「はい。後任が優秀なので問題ないですよ」
わたしはにこりと笑って言ったのに、先生はとても寂しそうな顔をした。
そして先生は次に発する言葉を迷うように、口を開けては閉ざした。
そんな先生の口から出る言葉なんてきっと、とっても残酷なものなんだ。
「先生」
だから、聞きたくない。
「最後に大役を任せていただきありがとうございました」
わざと『最後』を強調して言ったわたしに、先生が息を呑んだのがわかった。
ざまあみろ。
そちら側が言う言葉なんてたかがしれてる。
自分が軽率に放とうとした言葉の脆さに気がつけばいい。
わたしは意地悪を言ったことを詫びるように先生に頭を下げて、背を向けた。
まだポツポツと残る保護者を横目に出入り口を目指す。
「佐倉」
会場の片付けが行われる、決して静かではない体育館。
「帰ってくるの、待ってるからな」
わたしは聞こえないふりをして体育館を後にした。
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