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 外に出れば「卒業式」と書かれた看板の前で写真を撮る卒業生で溢れていた。  SNSが普及した時代なんだから「会おう」って一言メッセージを送れば会えるくせに、まるで別れが惜しいかのように肩を抱き合っていた。  絶対連絡してよね。  彼氏ができたら教えてね。  ずっと友達でいてね。 「ばっかじゃないの」  今日晴れの日を迎えた先輩達に向ける言葉には到底相応しくないわたしの声は、喧騒に掻き消されて誰の耳にも届くことはなかった。  人の波をすり抜け、わたしは校舎へと足を踏み入れた。  遠くなる人の声。  漂う静けさ。  日当たりの悪い廊下は少し肌寒くて、ブレザーの袖口から中に着ているセーターを引っ張り出した。つい癖で引っ張ってしまうセーターの袖口は少しほつれていたけれど、きっと買い換えることはないだろう。  わたしはタンタン、と階段を登った。すると踊り場の壁の不自然な空白が目に飛び込んできた。  『絵画コンクール受賞作品』と自慢げに貼られた紙の下にポッカリと開いた空白。  そこには一枚の絵が飾られていたはずで、とめてあった画鋲はそのままに、まるで力任せに剥がされたようだった。  幸い画鋲に引っかかっているのは絵を貼っていた台紙で、桜色のそれが無惨にもぶらんと引っかかってた。  つい先日までは確かにそこにあった一枚の絵は、姿を消してしまっていた。
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