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「……おまえ、趣味悪いよ」  先輩の声にはもう、刺はなかった。  そのかわり今度は消えてしまいそうなほど弱々しいものだった。 「今初めて喋った先輩にわたしのセンス否定されたくないんですけど」 「それも、そうか」 「は?」  つい喧嘩腰になってしまったわたしを咎めるどころかあっさりと同意して、先輩は手に持っていた一枚の絵を見つめた。  その目がどうしてだか泣いてしまいそうだと、そう思った。 「じゃあこの絵のどこが好きなの?」 「は?」 「好きなんでしょ? この絵」  ひらひらとこちらに絵を見せながら先輩は言った。  雑に扱う先輩に少し、腹が立った。 「教えてよ、どこが好きなのか」  長い前髪の隙間から先輩の目がこちらを覗く。  その目は射抜くように鋭いのに、どこか怯えているようにも見えた。 「……自由な感じが、好きなんです」  今度はわたしの言葉を否定することはなかった。  先輩は続きを託すようにわたしの目をジッと見つめている。 「はじめてその絵を見た時も今日みたいに屋上に向かっている時でした」
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