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秋も終わりに差し掛かり、枝に残る葉も随分とさびしくなった頃だった。
日当たりの悪い廊下はとても寒くて、すれ違う生徒は皆どこか早足で先を急いでいた。
もうすぐ授業が始まるというのにわたしの足が向かうのは自分の教室ではなかった。理科室でも視聴覚室でも体育館でもなかった。
どうしても一人になりたくて、どうしても静かなところに行きたくて。なのにどこに行くか明確な当てもなく彷徨うわたしは、通いはじめてもうすぐ2年になる校舎で迷子になっているかのようだった。
授業に向かう先生たちとすれ違わないように、とりあえず階段を登った。入学して間もない頃、面白半分でヘアピンで開けた屋上の扉を思い出したからだった。
どこかの教室から聞こえてくる騒がしい声が煩わしいのに、遠のくほどにとても寂しく感じた。
そんな時だった。
大きな翼を広げて雲ひとつない青空に飛び立とうとする少女が目に飛び込んできた。
「ありきたりな言葉かもしれないけど、綺麗だと思いました。それに……」
正確には青空を見上げて翼を広げる少女の絵だった。
黄色、赤、オレンジ。滲むように混ざる優しい色たちに包まれる少女は、眩しいほどに鮮やかだった。
「羨ましい、とも思いました」
背中に翼を広げた後ろ姿は真っ直ぐで凛としていて、これから飛び立つことをなに一つ恐れていないかのようだった。
気づけばわたしは一枚の絵の前で涙を流していた。
「絵の中の女の子がなににも囚われていないようで、自由で、とても羨ましかった。わたしもあんな風に――――」
――――自由に飛べたらよかったのに。
続きの言葉はどうしてだか声にならなかった。
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