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芽生
人はなにかに絶望した時、まるでこの世の終わりかのように感じてしまう。
俺もその一人だった。
でも高校を卒業したあの日、一人の少女に出会った。
彼女は涙を流しながら、それでもとても力強い声で「絶望から這い上がってやる」と言った。
そして、彼女は空を見上げた。
春風に靡く彼女の長い髪を見ながら、俺は似ていると思った。
「この絵、素敵ですね」
「ありがとうございます。この絵は自分にとっても思い入れが強いんですよ」
あの日死のうとしていた俺に「命をくれ」と言った彼女。
当然だけどあげることなんてできなくて、そこまでして生きたいと願う彼女になにも言うことができなかった。
けれど、俺はその年の桜を見た。
綺麗で鮮やかで、思わず押し入れにしまっていたスケッチブックを引っ張り出して鉛筆を握った。
すると鉛筆を握る手が止まらなくて、次は絵具を引っ張り出した。
ずっと描けずにいた自分から少しずつ開放されていくようだった。
そして俺は次の年の、彼女が見れないかもしれないと言った桜を見た。
俺の手には当たり前のようにスケッチブックがあった。
「この絵はモデルさんがいらっしゃるんですか?」
「はい」
あの日初めて喋った彼女は、挫折は一つの結果であり、一つの終わりであると同時に新たなスタートなのだと俺に教えてくれた。
「俺の、……命の恩人です」
俺は今日も何度目かのスタートラインに立っている。
彼女も今、どこかのスタートラインに立っているだろうか。
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