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Aと俺
「……っ何でだよ、っ」
何でこんな風に感じるんだ、俺の心。
何であいつに同情するんだ、俺の感情。
何でこんな時に勃ってるんだ。俺の身体。
「っわけわかんねえよ……っ」
俺はただ、楽しく可愛く浮かれてただけだった。Aの気持ちにずっと気づかずに、ひとりで裸の王様をしていただけだった。
「っ……くそ!」
悪態をつくと、俺は清算してホテルを出た。
「あいっつ、どこ行きやがった!」
このホテル街を女性の一人歩きとか、絶対危険なやつだろ! 待ってろ、俺は「彼女」にそんなことするような、クソ野郎じゃないことを証明する。
そして言ってやる。
「Aーッ!!」
俺は空に向かって怒鳴った。
すると、前を歩いているカップルがビクリと肩をすくめ、手近なホテルへ逃げ込んで行った。
俺は走った。
どこまでも夜の匂いのする街を、まっすぐに駆け抜けていった。Aの馬鹿野郎を探して。
「あいつ、どこ行った……!」
もうどうしようもないぐらい離れてしまった距離を、縮めようと努力するなんて馬鹿げているのかもしれない。
でもこれまでのAとの友情を、今日一日の出来事ぐらいでなかったことにはしたくなかった。
俺は叫んで走り抜けた。
酔っ払いが囃し立てるのを聞いたが、それすら無視して走り抜けた。
もう呼吸もままならない、と思った刹那。
「えっ……?」
と通り過ぎた路地で一瞬だけ、Aの「おしとやか」な方の声が聞こえた。
「お前、Aかっ?」
「ど、どうして……」
どうしてだかわからない。
ただこのままじゃ嫌だっただけだ。
俺は、Aみたいに頭が良くもないし、Aみたいにとっさに上手い嘘がつけるほどの機転もない。Aのような情熱の込もった目で睨まれて、平常心を保てる理性も、今はどこかに行ってしまった。
「お、俺は……っ」
それでも、俺は前に進もうとすることに決めた。
それでも……それでも好きだと語ったAの言葉に、何かを賭けてみようと思ったのだ。
「A、俺は……っ!」
俺が言葉を継ごうとした時、大きな車のクラクションが鳴った。道を塞いでしまっていたせいだった。
それで憑き物が落ちたように落ち着いたが、心臓はまだドキドキしている。Aが、俺を混乱と、少しの期待と怖れを持って見つめていることがわかった。
それだけは、それだけは俺と同じだとわかった。
いずれにしても、俺はAとの間にある何かを前に進めなければならない。Aの勇気と行動力と大きな情熱を賭けたモノを受け取ってしまったからには、何かを投げ返さなければ。
「A、俺は……っ」
俺は言葉を選ぶ間もなく、Aに対して大声で吐きかけた。
この恋、如何に……!?
=終=
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