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王子の誓い・姫の誓い
しかし、その時、奇妙な齟齬に気づいたのです。姫の身体は丸みを帯びたところがなく、どことなく骨ばっていました。胸も、腰も、肩も、すらりと伸びる脚さえも、硬く尖っていました。
「これは一体……姫、失礼だが、あなたは」
「約束したとおり、わたくしはあなたを生涯の伴侶とし、ともに過ごすことを誓います。ですから、あなたもどうか、わたくしのこの身体の秘密を知っても、約束をお破りにならないで……」
姫がこれほどまでに長く王子と言葉を交わしたのは初めてでした。いつもはお付きの侍女が、姫の小声を通訳してくれていたのです。それでも、姫との会話は楽しく、心躍るものでしたので、王子は小さな違和感に気づかず、見て見ぬ振りをしてきたのでした。
「男……?」
王子は思わず、腕に抱いた姫を間近に見て呟きました。
身体を暴くまでもなく、そこにいるのは華奢ではあれど、まぎれもなく王子と同じ性を持った身体でした。王子は狼狽し、姫から身を引きます。姫は手を伸ばそうともせずに、哀しげに、初めて王子と目を合わせました。
「わたくしの秘密はあまりにも大きく、あまりにも罪深いものです。あなたの許しがなければ、決して報われないほどに……」
涙が一粒、姫の虹色の瞳から零れ落ちました。
「なぜこんなことを……!」
王子は動揺が怒りに変わっていくのを感じ、失望しました。婚前での神への誓いは絶対です。しかしそれ以上に、愛していた者との約束ひとつ守れない男と思われることが、誇り高い王子には耐え難いことでした。
「あなたが私を謀らなければ、こんなに心乱されることもなかったろうに。なぜ打ち明けてくれなかったのか。嘘を付かれて、私に泣き寝入りを強いるなど、どれほどの悪女……いや、悪漢か!」
王子が寝台を降りた時、姫だった青年は静かに、それまで結んでいた唇をほどきました。
「おわかりにならないのか、王子」
「わからぬ。わかるわけがない! こんな大嘘をついてまで、私を笑い者にしたかったのか!」
「本当に、おわかりにならないのか、王子」
そう言った元姫の青年の虹色の瞳は、溢れる涙に澄んでいました。こんな美しい色を湛えた瞳のどこから、嘘が湧いてくるのかと王子は思いました。
「わかるわけがない……わかるわけが!」
「わたくしは次頭王家の姫として育てられました。ですが、この身体は嘘ばかり。子をなすことすらかないません。ですから、あなたとの顔見せの時、最初は適当な理由を付けて断ろうと思っていたのです。でも、あなたはわたくしの憧れの君でした。あなたは覚えていらっしゃらないでしょうが、次頭の屋敷を抜け出し、お忍びで王宮に何度か通った時、青空の下で談笑するあなたを垣間見ました。美しい方だと心底から思いました。わたくしの嘘にまみれた姿を晒すのが、あなたで良かったと思いました。ですから、神への誓いどおり、どんなことがあっても、わたくしはあなたを生涯の伴侶とすると決めたのです」
「男と結婚など……っ、できるわけがないだろう! 私を裏切っておいて、なぜそのような嘘をまだつくのだ!」
「おわかりにならないか、王子」
「ああ、わからぬ! わかるわけがない!」
「それでも……それでもわたくしは、あなたをお慕い申し上げているのです!」
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